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伊集院静の「贈る言葉」 ~若者へ贈られた23のメッセージ~

投稿日:2019年4月1日 更新日:

「落ちるリンゴを待つな。」

 「落ちるリンゴを待つな。」の新聞広告

 10日ほど前に知人からメールをいただいた。ご長女が4月から某中学校の新任教諭として勤務されるとのこと。しかも勤務先はご自分の母校ということである。文面からはご息女が社会人の仲間入りをされる喜びがうかがえ、何だかこちらまで嬉しくなった。

 今日は4月1日、新年度がスタートする日である。恐らく90万人を越える若者たちが、新社会人のスタートを切ることだろう。

 ところで、毎年4月の初出勤日の朝刊を楽しみにしている方も多いのではあるまいか。伊集院静(いじゅういん・しずか)氏の「新社会人おめでとう」という激励メッセージ(実はサントリー社の広告)が、全国紙に掲載されるからだ。

 これは成人式の「新成人おめでとう」と並ぶ名物広告で、1978年に作家の山口瞳(やまぐち・ひとみ)氏の寄稿から始まったとか。1995年に山口氏が亡くなった後は、伊集院氏が2000年から引き継ぎ今日にいたっている。

 これまでの新社会人へのメッセージで小生が最も好きなのは、2012年4月の「落ちるリンゴを待つな」というもの。

  落ちるリンゴを待つな

新社会人おめでとう。
君は今どんな職場で出発の日を迎えただろうか。
それがどんな仕事であれ、そこは君の人生の出発点になる。

仕事とは何だろうか。
君が生きている証しが仕事だと私は思う。

大変なことがあった東北の地にも、今、リンゴの白い花が咲こうとしている。
皆、新しい出発に歩もうとしている。

君はリンゴの実がなる木を見たことがあるか。
リンゴ園の老人が言うには、一番リンゴらしい時に木から取ってやるのが、大切なことだ。
落ちてからではリンゴではなくなるそうだ。
それは仕事にも置きかえられる。

落ちるリンゴを待っていてはダメだ。
木に登ってリンゴを取りに行こう。
そうして一番美味しいリンゴを皆に食べてもらおうじゃないか。

一、二度、木から落ちてもなんてことはない。
リンゴの花のあの白い美しさも果汁あふれる美味しさも厳しい冬があったからできたのだ。
風に向かえ。
苦節に耐えろ。
常に何かに挑む姿勢が、今、この国で大切なことだ。

夕暮れ、ヒザ小僧をこすりつつ一杯やろうじゃないか。
新社会人の君達に乾杯。

伊集院静

※ 改行は引用者による。

 2012年4月と言えば、前年3月の東日本大震災の甚大な被害から立ち直ろうと、日本国中が困難な壁に立ち向かっていた頃である。

 小生が気に入っているのは次の一節、

落ちるリンゴを待っていてはダメだ。
木に登ってリンゴを取りに行こう。
そうして一番美味しいリンゴを皆に食べてもらおうじゃないか。

 自ら困難に挑もうとするチャレンジ精神と、苦労して得た成果を分かち合おうとする利他の姿勢に心を打たれたのだ。しかも「取りに行こう」「食べてもらおう」という呼びかけには、自らもリンゴを取りに行く「大人」の心意気が感じ取れる。

 ヒザ小僧の傷をこすりながら若者と飲む酒は、さぞかし美味なことだろう。

 

伊集院静の「贈る言葉」 ~平成の若者へ贈られた23のメッセージ~

 伊集院氏が2000年から2012年までに寄稿した23のメッセージは一冊にまとめられ、『伊集院静の「贈る言葉」』(伊集院静、集英社)として出版されている。

伊集院静の[贈る言葉」表紙

 新成人へのメッセージ11編は「二十歳の君へ」、新社会人への12編は「働く君へ」という章名をつけられ収録されている。

 「働く君へ」に収められたタイトルは、

  • 空っぽのグラス諸君。(2000年)
  • 抵抗せよ。すぐ役立つ人になるな。(2001年)
  • 熱い人になれ。(2002年)
  • 誇り高き0(ゼロ)であれ。(2004年)
  • 生きる力をくれたまえ。(2005年)
  • 人がまずあるのだ。(2006年)
  • 豊かな森をつくろう。(2007年)
  • 仕事の喜びとは何か?(2008年)
  • その仕事はともに生きるためにあるか。(2009年)
  • 千載一遇。汗をかこう。誇りと品格を持て。(2010年)
  • ハガネのように花のように(2011年)
  • 落ちるリンゴを待つな。(2012年)

 いずれも働くこと、社会人として生きていくことの本質が語られている。若者だけでなく、いまだに迷いながら生きている大人をドキリとさせるものも多い。

 最後に、M子さん、おめでとう! 今夜は、あなたと新しいスタートを切る全ての若者たちに、祝杯を挙げるとしよう。

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