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映画『人生フルーツ』、歳を重ねるほど人生は美しくなる (1)

投稿日:2018年8月23日 更新日:

津端ご夫妻

(出典:映画「人生フルーツ」パンフレット)

 何とほほえましく、魅力的なご夫婦であろうか。歳を重ねた品格と内面の豊かさとが、自然ににじみ出ているような笑顔である。

 このお二人は、津端修一(つばた・しゅういち)さん(建築家、90歳)と妻の英子(ひでこ)さん(87)歳。昨今はスローライフの先達として、若い世代を中心に多くの支持を集めていると聞く。撮影当時のお二人の年齢を合わせると、177歳である。

 今回は、雑木林の中、赤い屋根の小さな家で暮らすお二人の日常を追った映画、『人生フルーツ』(2017年1月公開)を紹介させていただこう。

 ※ 修一さんは、2015年6月2日に逝去された。

 

目次

「人生はだんだん美しくなる」、映画『人生フルーツ』を観て

津端ご夫妻

(出典:映画「人生フルーツ」パンフレット)

 津端ご夫妻の暮らしと生き方を広く世に知らしめたのが、『人生フルーツ』。この作品、実に素晴らしいできばえで、小生はすっかり参ってしまった。

 すっかり参った理由の一つは、なんと言っても津端ご夫妻の生き方の豊かさと見事さ。自然を慈しみ、日々を丁寧に生きるご夫妻の姿は、理屈抜きに美しい。「こんなふうに歳をとりたいものだ」と、自然に納得してしまう暮らしがそこにある。

 もう一つの理由は、制作スタッフの丁寧で誠実な仕事ぶり。お二人との信頼関係をじっくり築きながら、2年間かけ撮影された膨大な録画。丁寧に積み重ねられた記録から厳選されたであろうシーンの一つ一つが、いぶし銀のように渋い光沢を放つ。

 作品パンフレット掲載の「監督日誌」によれば、「テレビの取材はお断りです」が修一さんの第一声。伏原健之(ふしはら・けんし)監督の対応がすばらしい。

 「恋も仕事もフラれてからが勝負」と、万年筆で長文の「ラブレター」(?)を送り続けた。「あなたの生き方を伝えたい」、「私が探していたのはあなた」、「あなたしかいない」と書き続け、4通目を送ったところで、ご夫妻の笑顔のイラストと小さな字で「よろしく」と書かれたハガキが届いた。片思いが成就したのである。

伏原健之監督

伏原健之監督(出典:「人生フルーツ」パンフレット)

『人生フルーツ』の概要

 YouTubeにアップされた予告編(約2分間)を見ていただくと、作品の雰囲気が短時間でつかめると思う。まずは、ご覧あれ。

 

 本作品は、映画『人生フルーツ』公式サイトでは、次のように紹介されている。

 愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンの一隅。雑木林に囲まれた一軒の平屋。それは建築家の津端修一さんが、師であるアントニン・レーモンドの自邸に倣って建てた家。四季折々、キッチンガーデンを彩る70種の野菜と50種の果実が、妻・英子さんの手で美味しいごちそうに変わります。刺繍や編み物から機織りまで、何でもこなす英子さん。ふたりは、たがいの名を「さん付け」で呼び合います。長年連れ添った夫婦の暮らしは、細やかな気遣いと工夫に満ちていました。そう、「家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない」とは、モダニズムの巨匠ル・コルビュジエの言葉です。

(出典:前掲サイト)

つばた家の室内

津端家の室内(出典:映画「人生フルーツ」パンフレット)

 かつて日本住宅公団のエースだった修一さんは、阿佐ヶ谷住宅や多摩平団地などの都市計画に携わってきました。1960年代、風の通り道となる雑木林を残し、自然との共生を目指したニュータウンを計画。けれど、経済優先の時代はそれを許さず、完成したのは理想とはほど遠い無機質な大規模団地。修一さんは、それまでの仕事から距離を置き、自ら手がけたニュータウンに土地を買い、家を建て、雑木林を育てはじめましたーー。あれから50年、ふたりはコツコツ、ゆっくりと時をためてきました。そして、90歳になった修一さんに新たな仕事の依頼がやってきます。

(出典:前掲サイト)

 2017年1月の作品公開時には、東京で立ち見が出るほどの人気だったと聞く。その後、全国各地で公開(福岡県では3館)されていたようだが、現在はほとんど上映終了となっている。

 残念なのはDVDが発売されていないことで、せめてネットによるオンデマンド配信(有料)はできないものか、と強く要望したい。

 

『人生フルーツ』とわたし

 さて、偉そうに(?)『人生フルーツ』を紹介している小生だが、実は、昨年(2017年)まで津端ご夫妻のことは全く存じ上げなかったのである(爆)。昨秋、たまたま本作を観る機会があり、それから大ファンとなった次第。

 観る前は、まず『人生フルーツ』という奇妙なタイトルが不思議でならなかった。老夫婦の暮らしを追ったドキュメンタリー作品、少数だが熱烈なファンがいる、ナレーションが樹木希林、ぐらいが当初ネットで得た情報の全て。

 さらにYouTubeの予告編を観て、「これはカミさんと一緒に観る価値があるかも‥‥」と声をかけ、一緒に鑑賞(?)ということになった。

 今思い返せば、翌年3月のリタイヤを前に、「人生の最終ステージをどう生きようか」とあれこれ思案していたからであろう。楽しく豊かに生きるシニアの実例を探していたのかもしれない。

 終映後、「いい映画だったな。こんな生き方もあるんだ‥‥。」という会話をカミさんと交わした記憶がある。どこが良いのかうまく言い表せないのが、実にもどかしかった。

 それから、お二人のことが心のどこかに妙にひっかかっていた。図書館で著書をリクエストし、次の4冊を読んでみた。

  • 『ききがたり ときをためる暮らし』(つばた英子、つばたしゅういち、自然食通信社)
  • 『ふたりからひとり ときをためる暮らし それから』( 同上 )
  • 『あしたも、こはるびより。』(つばた英子、つばたしゅういち、主婦と生活社)
  • 『きのう、きょう、あした。』( 同上 )

あしたも、こはるびより

 読んでみると、映画では描き尽くせていない新たな発見がいくつもあった。津端ご夫妻の生き方をしっかり裏付ける信念と美学が、明確に語られていた。そうか、映画のあの言動にはこんな思いや背景があったのか‥‥。

 機会があればそのことにも触れてみたいのだが、さていつになることやら‥‥。
 ではでは、今回はこれで‥‥。

 

◆本記事の続きはこちら >映画『人生フルーツ』、歳を重ねるほど人生は美しくなる (2) 

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