山歩き

大崩山系で滑落、重傷のまま55時間を生き抜いた記録

投稿日:2019年6月10日 更新日:

 
大崩山のわく塚

大崩山わく塚 2018年10月撮影

 「大崩(おおくえ)山系で遭難した(方の)体験談、ネットにのってましたけど、読みました?」

 こう知人から話しかけられたのが数日前。「大崩山 滑落」で検索すればヒットすると聞き、さっそく当該ブログサイトを拝見。その壮絶な体験に息をのむような思いをした。

 生々しい述懐には、山を歩く者が心すべき幾つかの教訓が読み取れると考え、紹介させていただくことにした。

 

事故の概要

 福岡県宗像市のアウトドアショップ「GRiPS」の店主 永松修氏が、宮崎県の大崩山系の木山内岳山中で滑落し、2日間生き延びて救助された体験談が公開されている。

 ※ 当該ブログはこちら > 大崩山系 滑落前。 そして滑落  (GRiPSブログ )

 最初にお断りしておくが、小生は事故に遭われた永松氏とは面識なし。ショップを訪れたこともない。本記事の事実確認も行ったわけではない。ただ上記ブログ記事をもとに、本稿を書いていることをご了解いただきたい。

写真は本文とは関係ありません(出典:http://www.police.pref.mie.jp/info/toukei/)

 前述のブログをもとに、事故の概要を整理すると次のようになる。

 2019年5月21日、宮崎県の大崩山系木山内岳山中を一人で歩いていた永松修さん(福岡県宗像市のアウトドアショップ店主)は、突然歩いていた登山道が地面ごと崩落し、崖下に転落。約30m下の木に引っかかって止まる。

 右足骨折、全身打撲、出血状態のまま身動きできなくなり、所持していた水も転落時に紛失。痛み、渇き、寒さに耐えて2日以上も生き抜き、3日目の午前11時頃に登山者に発見され、夕刻に救助隊に救出された。

 記事公開時は、緊急搬送された大分県の病院に入院中だったようだが、現在は福岡市内の病院に転院されたもよう(上記ブログの6月7日の記事より)である。

 九州最後の秘境と言われる大崩山系、小生も大崩山わく塚コースを数度、三里河原を1度歩いただけだが、その数少ない体験からでも、この山系の豊かな自然は素晴らしい、と心底思う。

 しかし、手つかずの豊かな自然とは、言葉を換えれば、いつ何が起こるか分からない原始林に他ならない。単独で事故や遭難に遭えば、命を失う危険と隣り合わせである。

 

「悲観的に準備し、楽観的に実施せよ」、ソロ登山者の鉄則

ソロ登山者

出典:pixabay

 「悲観的に準備し、楽観的に実施せよ」、これが危機管理のポイントとよく言われるが、なかなか出来るものではない。

 永松氏の体験談を拝見し驚いたのは、事故に遭遇した氏がパニックに陥ることなく、この言葉のとおりに冷静に対応されていたことである。

 その例を箇条書きしてみると、

  • 生き抜くために必要な基礎体力とスキルを日頃から養成していた点。
    登山やトレイルランニング等のトレーニング、応急処置の対応(足の骨折)ができるスキル等
  • 「セルフレスキュー」のためのツールを携帯していた点。
    患部を固定するテーピングテープ、雨風を避けるためのタープ、保温のためのダウンウェアやエマージェンシーシート、所在を知らせるためのホイッスルやライト等
  • 登山計画書の作成と奥様への提示
    出発前に簡単な登山計画書を必ず奥様に渡していた点。下山予定日の翌日以降に救難要請をしてくれることを予測し、救助隊が来ることを信じていた。
  • 冷静な判断力と忍耐力
    救助隊が出動開始するまでの48時間は、一人で生き抜く覚悟を固め、救助を待つことに徹した点。痛みと孤独、恐怖に耐えながら、2日以上を生き抜いた冷静な判断力には脱帽するしかない。

 氏が最も後悔したのは、緊急時の家族への指示を徹底していなかったこと。「下山予定日の何時までに連絡がとれなかったら、躊躇なく〇〇に電話する」というように、具体的な指示を徹底しておくべきだった、と反省されている。

 余談だが、終始冷静さを失わなかった永松氏が思わず涙した場面は強く印象に残った。こんな場面である。 

 遭難者救助のために数時間をかけて山深い山中に分け入り、大変な苦労をして稜線まで引き上げてくれた救助隊員たち。救難ヘリにピックアップする時、こんな言葉をかけてくれたとか。

 「怪我が治ったら、また佐伯の山に来てくださいね!」

 山の事故は、いつでも誰にでも起こりうる。かく言う小生も5月中旬の登山中に右ひざ下部に裂傷を負い、10針近く縫合された経験もあって、他人事とは思えなかった。

 最悪の事態を想定し、日頃から体力、スキルの養成を図るとともに、セルフレスキューのツールを準備をしておく大切さを再認識させられた体験談であった。

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