あとからくる君たちへ 読書

あとからくる君たちへ(11) 『オール1の落ちこぼれ、教師になる』

投稿日:2018年11月13日 更新日:

目次

23歳にして、小3の算数ドリルを解き始めた男

宮本延春

 ……23年前のある夜のことです。仕事を終えた一人の若者が、小学3年生の算数ドリルを1ページ、1ページめくりながら問題を解き始めました。昼間は建設会社で働き、疲れ切って帰宅してからの学習です。

 この若者の名は、宮本延春(みやもと・まさはる)さん。小学校の頃からひどいいじめで学校嫌いになり、勉強も大嫌いだったそうです。中学1年生の通知表はオール1。

 中学を卒業する時には、漢字で書けるのは自分の名前だけ、英語の単語は”Book” だけしか知らず、九九は2の段までしか言えない極端な「落ちこぼれ」でした。

 高校には進学せず、中卒で見習い大工として就職。16歳で母と18歳で父と死別し、算数ドリルに取り組み始めた23歳の頃は、全く天涯孤独の身だったとか。

 一度は自分をあきらめていた宮本さんは、どうして勉強をやり直そうと考えたのでしょう? 「落ちこぼれ」が編み出した勉強法とは? 奇跡の教師「オール1先生」が、勉強法の極意と、夢を叶えるまでの道のりを紹介する自伝です。

 今度の週末、この本を手にとってみませんか?

★『オール1の落ちこぼれ、教師になる』(宮本延春、角川文庫、514円)

(平成27年7月「こもれびだより 5号」掲載記事を加除修正したもの)

※ 注:文中の「23年前」は本稿発表時(2015年)における数値。2018年現在では「26年前」となる。

 

追記

成長するには、「憧れの人」が必要

 人には、特に成長著しい若者には、「ロール・モデル(”role model”)」が必要と言われる。ロール・モデルとは、端的に言えば「お手本となる人物」のこと。あの人のようになりたいという「憧れの人」とも言える。英語の 「role(役割)+ model(手本)」という二つの単語を組み合わせたものだそうだ。 

 たとえば、野球少年なら大谷翔平、スケート少女なら浅田真央、将棋男子なら藤井聡太、タレント志望女子なら安室奈美恵、昔のツッパリなら矢沢永吉(かなり古いか)‥‥。

 若者は自分の「憧れの人」を見つけ、その人の「まねをする」ことで大きく成長していく。ロール・モデルを設定することで自分がめざす方向性が明確となり、モデルと自分を比較することで自分の未熟さを自覚し、モデルのまねをすることで具体的な努力を継続できるからである。

 勉強が不得手な子、いじめられがちな子、学校に居場所が見つけられない子にとって、宮本延春氏は良きロール・モデルであると判断し、紹介した次第。

 

宮本延春氏について

 宮本氏のハンディと数奇な半生については、次のプロフィールを一読すれば、お分かりいただけよう。

◆プロフィール

1969年 1月4日生まれ。愛知県半田市出身。
小学生の頃から、体も小さく、”いじめ”の標的にされていた。
中学校に進み、最初にもらった通知表は、「オール1」。義務教育を終えた時の通知表も技術家庭・音楽が「2」で残りはすべて「1」だった。
「九九」を全部言うことさえも出来なかった。
中学校卒業後、大工の道に進み、厳しい指導の中、最愛の理解者である「母」を亡くし、思うところあり17歳で大工をやめる。その後、地元の建設会社に就職。
1992年 23歳の頃、1本のビデオ「アインシュタインの理論”光は波か、粒か”」との出会いから、物理学に興味を持ち、大学進学を決意する。
夢への道は、小学校3年生のドリル・九九のマスターから始まった。
1993年 24歳の春、猛勉強の末、地元の高校(定時制)に合格。
高校3年の3学期、大学入試センター試験で、8割近い点を取り、名古屋大学理学部を受験。見事合格する。
1996年 4月、27歳で名古屋大学に入学。
その後、大学と大学院で、宇宙物理学を専攻し、素粒子などの研究に没頭。
満ち足りた生活の中で、別の思いが芽生える。
2005年 4月、36歳で、母校(高校)の教師になる。

(出典:宮本延春 Official site

宮本延春氏の調査書

宮本氏の中学校卒業時の成績。志願者欄は、旧姓「山元」で記載されている。(出典:前掲書)

 23歳で小学生の算数ドリルから再出発を決意した宮本氏の凄さは、昼間の仕事で疲れていても夜間の学習を粘り強く継続した点と、物理学への興味・関心を満たすために難関名古屋大学を志願した点にある。

 ノーベル賞受賞者を6人輩出した名古屋大学。宮本氏がめざした名大理学部の学力レベルは、中学校卒業時に評定1や2ばかりの生徒が簡単に合格できる難易度ではあるまい。

 宮本氏は、誰でもできる努力を誰にもできないほど継続し、高き理想をめざしたからこそ、人生を大きく変えることができたのだろう。

 現在の宮本氏は、高校教諭を辞めて執筆や講演活動等に従事されていると聞く。

※ 宮本延春氏の公式サイトはこちら >宮本延春 Official site

本シリーズの次の記事へ >あとからくる君たちへ(12 ) 人間を月に送る、不可能に挑戦した人々

追記

  1. 本書は宮本氏の「子ども達にもぜひ読んで欲しい」との希望により、「小学校5年生以上で習う漢字には、読み仮名をつけている」とのこと。いろいろな問題で悩んだり、つまづいている小学生にも勧められると思う。(2018年11月22日)

 

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