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プロジェクトマナージャーが語る「スリル満点の冒険録」
2020年12月6日未明、無事に地球帰還を果たした「はやぶさ2」。そのプロジェクトを率いた津田雄一氏の著書『はやぶさ2 最強ミッションの真実』(NHK出版)を読み終えた。
本書の帯には、『7つの「世界初」を実現した舞台裏 プロジェクトの若きリーダーが赤裸々に語る、スリル満点の冒険録』と記されている。この言葉どおり、プロジェクトの構想がスタートした2009年8月から11年間にわたる「困難と苦闘」のエピソードの数々が、臨場感あふれる筆致で紹介されている。
はじめは軽い気持ちでページを繰っていたのだが、あまりの面白さに引き込まれ、時を忘れて一気に読み通してしまった。プロジェクトに次から次へ襲いかかるトラブルと難題、それを固い絆と知恵と工夫で乗り越えていくプロジェクトチームの熱気‥‥。
まるで映画か冒険小説のようなヒヤヒヤ、ドキドキの展開が続く。これが同時代を生きる我々の前で実際に起こった事実なのだから、面白くないわけがない。
極めて私的な感想だが、今年読んだ本の中でベスト3に入る1冊だった。
困難に挑戦し続けた「はやぶさ2」チーム
本書の面白さは、著者が語るとおり「困難に遭遇し、それに打ち勝とうとした挑戦のプロセス」にある。
恥ずかしくなるような低予算と極めて短期間だった開発工程、トラブル続出で「生みの苦しみ」の連続だった組立工程。「(岩だらけで)着陸可能な場所は一つもありません」という絶望的状況から、難題を乗り越え達成した1回目のタッチダウン。小惑星にクレーターをうがち地中の岩石を採取する、という人類初の2回目のタッチダウン等。想定外の難題を一つ一つ克服していく挑戦の様子は、読む者の胸を熱くする。
本書の白眉は、やはり2回目のタッチダウンを実行するか否かの攻防だが、これについては既に本ブログの別記事で紹介しているので、割愛させていただく。興味がある方はそちらをご覧いただきたい。
チームの育成と成長のドラマとして読む
本書は「困難への挑戦」ドキュメントとして読むだけでなく、若きリーダーがいかにチームを編成し、育成し、目標を達成させたかという、育成と成長のドラマとしても興味深い。
39歳でプロジェクトマネージャーに任命された津田氏が考えたことは、「負けないチーム、かつ大胆に挑戦するチーム」づくりだったとか。そのためには「ギャンブルはしない、しかし挑戦はどんどんする」というチーム文化を作り上げる必要があった。
集められたメンバーは、津田氏と同世代かその下の世代が中心。ソフトモヒカン頭のNEC職員たち、「ねちねちの寝技」が得意な元柔道部出身者、「机が汚く、顔がイケメンで、仕事ぶりが情熱的リアリスト」のサンプル採取装置開発担当者‥‥等々、個性豊かかつ「やんちゃ」で、真摯にプロジェクト成功に向け取り組む人々。
チームのスローガンは「想定外を想定しよう!」。人類未到の天体で想定外の事態が起こらないわけがない。だから「想定外(が起こることを)を想定し」、想定外に対処するための「訓練」を納得いくまで行うこと。
「安心して失敗」できる訓練の場を設け、失敗体験をチームで共有することが育成のポイントだったと言う。
結果的にはしつこいほど繰り返した訓練が、数々のピンチを救うことになる(詳細は本書をご覧いただきたい)。
最難関であった2回目のタッチダウン成功の瞬間は、次のように描かれている。
‥‥管制室に歓喜が爆発した。いたるところで、拍手、ガッツポーズ、握手、抱擁、雄たけび、笑顔、そして涙。
ここまで読み進めた時点で、目が潤んでしまっていた。人と人が力を合わせて夢を実現させた感動は、老人の心をとりわけ揺さぶるものだ。
子供たちにワクワクするような未来を見せてあげたい
もう一つ小生が感銘を受けたのは、はやぶさ2の挑戦を次世代を担う子供たちに伝えたい、という願いが本書の執筆目的の一つだという点。
「少しでも新しい世界を探検することの臨場感を子供たちに見せたかった」、「私たち大人は、子供たちにワクワクするような未来を描いて見せてあげられているだろうか」という氏の言葉は、鋭く重い。
本書をお子さんに、孫たちに、あなたの目の前にいる児童・生徒に、そして挑戦する全ての人々へ紹介していただけたらと思う。感動と共に胸の奥底に希望の灯がともることだろう。
小生も、中学入学の折に孫たちに贈る「じいちゃんが薦める10冊の本」(仮称)候補に本書を挙げるつもりである。
※ 「はやぶさ2」拡張ミッションに関する動画はこちら >はやぶさ2新たなる挑戦 拡張ミッション
※ おまけ: