「これ何? ミッキーマウスみたい‥‥」という若いお嬢さんの声。なるほどミッキーか、そう見えなくもないなぁ。
◆前回の記事はこちら >出雲見聞録(2) 出雲大社(おおやしろ)で祈る
※ 本稿は2021年3月10日の記録を、3月30日にアップしたものです。
目次
参拝後の境内を散策し、近づく春を体感する
古代巨大神殿を支えた3本束ねの柱
御本殿を取り巻く垣を左回りに参拝し終え、もう一度八足門(やつあしもん)にもどった時の境内。「ミッキーマウス」のようなピンクの三輪が4つ描かれている。
実はこれ、古代の出雲大社本殿を支える巨大心柱(しんばしら)の出土跡。直径約1.4mの杉の大木を3本束ね、鉄輪でくくった心柱の直径は3mにも及ぶとか。
2000年に巨大柱が3本束ねられた姿で発掘され、高さ48mもの巨大神殿がこの地にそびえていたことが実証されたらしい。
この古代神殿に興味がある方は、大社に隣接する「島根県立古代出雲歴史博物館」を訪れることをお勧めする。
古代出雲の謎にまつわる多くの資料が展示され、実に興味深い。中でも平安時代の大社模型(実物の10分の1)は圧巻であった。
小生らは既に2回見学しているため、今回は入館は見合わせた。
※出雲市が制作した「古代出雲大社高層神殿VR/ARアプリ」プロモーション動画(2分19秒)
大社高層神殿についての情報がコンパクトにまとめられており、一見の価値あり。
絵馬に託された数々の願い
参拝を終え、カミさんは御札と御朱印をいただくために社務所に向かう。手持ちぶさたな小生、境内をぶらついている内に絵馬掛けに下げられた絵馬に目が止まる。
縁結びの神様に奉納された絵馬、どんな願いが記されているかそれとなく眺めてみる。
やはり恋や縁談の類いのお願いが多い。「好いご縁に恵まれますように」と書かれた絵札の中に、「‥‥もう悲しい想いをしたくないです。幸せになれますように。」というのを見つけ、ドキリとさせられた。
こんなお願いを目にすると、切なくなってくる。
今回最も胸を打たれたのは、この絵馬。
眺めているうちにじんわり目頭がうるんでくる‥‥。
御朱印をいただいたカミさんと二人、広々とした境内をぶらぶら歩きながら、訪れつつある春を五体で味わう。
ベンチに腰かけ思い切り体を伸ばす。うららかな日差しに温められ、コロナ禍で固く縮まっていた体がじわじわとほぐれていく。
早咲きの桜に目をやり、童謡の一節を思わず口ずさむ。「春よ来い 早く来い」
映画『RAILWAYS』のオレンジ電車に会いに行く
神門通りの途中にある一畑電鉄「出雲大社前駅」に立ち寄る。ここに展示されているオレンジ色の車両「デハニ50形」に会う(?)ためだ。
映画好きの方は覚えているだろうが、この電車は映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(2010年)に登場し、出雲の美しい田園風景の中を走っていたあの車両である。
説明板によれば一畑電鉄オリジナルの車両で、日本最古級の貴重なものだとか。
映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』のストーリーは、タイトル通りの内容(笑)。
中井貴一演じる一流企業のサラリーマンが、会社を辞めてふるさと出雲にもどり、子どもの頃の夢「バタデン(一畑電鉄)」の運転士に挑戦する映画だ。
取締役への昇進の見返りに、冷徹にリストラを推進するエリート企業戦士。仕事に追われ家庭を顧みない主人公。当然、妻や娘との関係はうまくいっていない。
そんな主人公が母の病(ガン)と友人の自殺をきっかけに、「俺はこんな人生を送りたかったのか‥‥」と新しい人生を選び直すというストーリー。
夢を実現するために奮闘する中年男性の姿と、崩壊寸前だった家族が少しずつ再生していくさまを描いた良作。
私事で恐縮だが、退職後に嘱託として勤務した「少年支援室(不登校生徒を支援する施設)」の広報誌に、この映画にまつわる一文をしたためたことがある。
「ゆっくりでいい。前に進んでいればそれでいい。」
このセリフ、実はある映画の主人公が、娘にぽつんとつぶやいた一言です。映画は『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(2010年)、主人公を演じたのは中井貴一という俳優でした。
一流会社のエリート社員、筒井肇。仕事一筋で家庭を顧みなかった筒井だが、50歳を目前にし、母の入院や親友の死を機会に人生をやり直す決意をする。重役に昇任したばかりの会社を辞め、幼い頃の夢だった電車運転士になろうと奮闘する……という映画でした。舞台は島根県の出雲。美しい出雲の光景が画面にあふれ、ああ、日本という国は美しいものだなとしみじみ感じたものです。
「ゆっくりでいい」が語られるシーンは、こんなふうでした。
……父が会社を辞め、夢をかなえるために故郷の電車運転士になり、生き生きと働いている。
夏休みで故郷に帰省した娘、ある夜「おとうさん、仕事楽しい?」
父「楽しい。恥ずかしいほど。」
娘「なんで、恥ずかしいの?」
父「楽しい仕事ってどこか嘘っぽいと思っていたから。」
父「そっちは、どうだ。就活は?」
娘「いろいろ迷っている。」
父「焦ることはない。」
娘「お父さん、変わったね。」
父「そうか?」
娘、笑顔で「焦ることはないって言ってる。」
父「そうだな。」
父「ゆっくりでいい。前に進んでいればそれでいい。」
娘「はい。」
二人で庭を見ながら、楽しそうにスイカを食べる。父親の生き生きとした姿、父親の心のゆとりが、娘を信頼し尊重する言葉をつむぎ出したのかもしれません。
『こもれびだより』(2014年9月号)
なかなか学校にもどれず悩んでいる生徒と親ごさんに、「ゆっくりでいいんですよ」とのメッセージを伝えたかったのだ。
あの子たちは今どうしているだろうか‥‥、そんなことを考えながら出雲大社駅を後にした。
※ 本記事の続きはこちら >出雲見聞録(4) 掛け軸の品定めに古美術店へ
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