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佐々木常夫氏の講演会場へダッシュ(?)
2019年11月9日(土)、今日は以前本ブログでも紹介した『ビッグ・ツリー ~自閉症の子、うつ病の妻を守り抜いて~』の著者、佐々木常夫氏の講演会の日である。(関係記事はこちら)
13時開場、13時30分開演の予定なのだが、あいにくこの日は9時~12時30分までは「木工教室」に出席せねばならない。したがって木工教室での作業を終えるや、急いで車を走らせて会場(北九州市立男女共同参画センター・ムーブ)に直行。車内で昼食代わりのおにぎりをほうばり、2階ホールにダッシュで(?)到着という慌ただしさだった。
前方の席を探すと、幸い前から2列目の席が空いていたので、何とかゲット! これで佐々木氏のお顔を間近で拝見しながら講演を聞けると、ひとまず安堵。周囲を見回すと8割方は男性、やっぱりなぁ。
過酷で壮絶な運命を、冷静に淡々と語る凄み
出典:佐々木常夫公式bot
13時30分に定刻どおり開演。司会者の紹介で登壇した佐々木氏を拝見し、「意外に小柄な方だな」というのが第一印象。
自閉症で始終問題を起こす長男、肝臓病とうつ病で40回以上も入院し、3回も自殺をはかった妻。そんな難しい家庭を父として夫として支え続け、繊維の東レで役員まで務めたという氏の実体験から、もっと大柄でたくましい男性のイメージを抱いていたのだろう。
ビジネススーツに身を固めた佐々木氏は、少し小声でご自分の経歴と家族の紹介から淡々と語り始めた。講演達者な語り手の場合、「つかみ」の部分でジョークの一つも披露して聴衆の関心を引きつけ、講演をスタートさせることが多い。
「この語り口で大丈夫かな?」と初めは不安だったが。5分もしないうちにその不安は消え去った。落ち着いてよどみない語り口から誠実さがにじみ出ると共に、人物から放たれる存在感が際立つのだ。過酷で壮絶な自己の運命を、冷静に淡々と語れる凄みに圧倒される。
「良い習慣は才能を超える」、「礼儀正しさにまさる攻撃力はない」、「欲を持ちなさい、欲が磨かれて志になる」‥‥、いずれも著書に何度も記されたフレーズである。しかし、その同じ言葉が直接本人の口から語られると、ストンと腑に落ちてくる。言葉が実体験を経て血肉化されているのがよく分かる。
90分間の講演中は、一言も聞き漏らすまいと耳を傾けていた。あっという間の90分である。本ブログで紹介したい話題はいくつもあるが、紙幅の関係でそれは難しい。
ここでは特に印象に残った話題を一つだけ紹介させていただこう。それは、「プアなイノベーションより、優れたイミテーション」という言葉。
「プアなイノベーションより、優れたイミテーション」
元東レ経営研究所社長の佐々木常夫氏(出典:共同通信社)
以下は、会場での走り書きをもとに小生が勝手に文章化したものである。よって文責は小生にある。できるだけ氏の言葉を再現しようと努めたが、言葉足らずで不十分な内容であることをお断りしておく。
- (倒産寸前の会社を再建し)東レに戻って最初にやったのは、書庫の整理です。企画の仕事は書類を作るのが仕事。先輩が作ったたくさんの書類が収められた書庫に、過去の経営会議の資料、開発会議の資料があった。作業着に着替えて書庫に入って、朝から晩まですべての書類を読みました。1カ月かかりました。
- 読んだ書類の半分は捨てました。残した書類はカテゴリー別に、重要度のランキングをつけてファイルリストを作りました。
- 会社の仕事というのは、同じことの繰り返しなんです。前例のない業務はあまりなく、過去に誰かがどこかで同じようなことをやっている。仕事を言われたら、あのファイルとあのファイルとあのファイル、3つを取り出してきて、考え方、フォーマット、着眼点をいただく、ということができるようになりました。
- データを最新のものに置き換えて、自分のアイディアを載せる。こうすれば、どのような業務にも素早く柔軟に対応できる。仕事が速くできるに決まっています。書庫には途中で落第したような資料は残っていません。最後の一番優れた作品が残っているんです。
- 過去の先輩方の最も優れた作品を使っているわけですから、仕事ができるのは当たり前です。だから私は部下に言います。自分のしょうもない頭なんて使わず、先輩の優れた作品を盗みなさい、と。
- 「プアなイノベーション(新機軸の発想、技術)より、優れたイミテーション(模倣)」です。これを繰り返すことによって、やがて優れたイノベーションが生まれてくるんです。
「プアなイノベーションより、優れたイミテーション」、70年近く生きてみると、この言葉が人生や仕事の核心をついた言葉だというのがよく分かる。
日本語に置き換えるなら、「愚者の長考より、先賢の定石」とでもなるのだろう。
未経験の営業課長の仕事、どのように取り組んだのか?
上記のエピソードと併せて語られたのが、氏が39歳で営業課長に昇任した時のエピソード。それまで営業を全くやった経験のない佐々木氏が営業課長になったのだから、周囲は皆「佐々木はきっと失敗するだろう」と噂していたとか。
- 営業経験がないので、何をどうしたらよいのかわかりません。当時、東レの先輩には「営業の神様」と呼ばれた方々か5人いました。私は、この5人に会いにいったのです。
- 「私のために30分だけ時間をいただけますか。あなたの経験から、営業課長として心得ておくべきことを教えていただきたい」というお願いのメッセージを伝えておきました。
- 5人の先輩は全員、快く会ってくれました。短い人で1時間、長い人は2時間、心を込めて営業の真髄や注意すべきことを語ってくれました。これら5人は、その後も私の貴重な相談相手になってくれ、支えてくれました。
- 私がやったことは、5人の「営業の神様」に会いに行っただけ。これだけで、私は貴重なメンター(指導者・助言者)を5人得ることができたのです。
仕事や人生で壁にぶつかった時は、同じことで悩んだ先人を探せ、とはよく聞かされた言葉である。同じような壁にぶつかった先人は必ずいるし、壁を乗り越えた人物も必ず存在する。いかに早く模倣すべき先人(の情報)を探し出すかが、成否のポイントとなる。
佐々木氏のサイン本をわが子にプレゼントする。
講演会終了後に氏のサイン本の販売会があるというので、さっそくエントランスで列に並ぶ。既に長蛇の列が続いている。ここでも購入者の大半が男性ばかり。東京で暮らす息子と娘にそれぞれ1冊ずつプレゼントしようと購入。
著書へのサインに忙しい氏にお願いをして、握手をしてもらう。握り返す右手の力強さは、75歳とはとても思えないほどだ。
息子と娘のために購入した著書、まもなく40歳を迎える息子には『そうか、君は課長になったのか』。できれば『部下を定時に帰す仕事術』も併せて読んでほしい(自分で購入しろよな)。
地方公務員として働く娘には、『働く女性に贈る言葉』を。こちらは未読なので今晩読んでみて、プレゼントするかどうかを決めるとしよう。
※ 『そうか、君は課長になったのか。』の執筆動機を語る佐々木常夫氏(3分21秒)
※ 本ブログでの佐々木常夫氏関連記事はこちら >
『ビッグツリー』の著者、佐々木常夫氏講演会のお知らせ
『働く君に贈る25の言葉』、社会人生活3年超の若者に薦めるこの一冊