今日は一冊の本を紹介させていただこう。書名は『日本一心を揺るがす新聞の社説』(水谷もりひと著、ごま書房新社)。日本一小さな新聞の「日本一心を揺るがす」コラムを集めた一冊だ。
初版が2010年なので、既にご存じの方も多いと思う。
目次
「今日の宿題は抱っこよ!」
『みやざき中央新聞』(現在は『日本講演新聞』に改称)のある日の社説は、次のようなエピソードの紹介から始まる。
今年の6月のある日のこと、小学校1年生の三女、こはるちゃんが学校から帰ってくるなり、嬉しそうにこう叫んだ。「お父さ~~ん、今日の宿題は抱っこよ!」
何と、こはるちゃんの担任の先生、「今日はおうちの人から抱っこしてもらってきてね」という宿題を出したのだった。
「よっしゃあ!」と、平田さんはしっかりこはるちゃんを抱きしめた。
その夜、こはるちゃんはお母さん、おじいちゃん、ひいおばあちゃん、2人のお姉ちゃん、合計6人と「抱っこの宿題」をして、翌日、学校で「抱っこのチャンピオン」になったそうだ。
(『「抱っこの宿題」、わすれんでね!』)
抱っこの話題はさらに続く。後半はフロイト心理学に触れつつ、わが子を抱きしめる大切さが説かれ、実は「抱っこ」は親に出された宿題だったのだ、という落ちで結ばれる。
約1600字、単行本4ページ分の長さの文章は、読みやすくものの数分もあれば読了できる。本書に載っている他の「社説」も同様に、読者の心にじんわりとしみ込んでくるような温かさと優しさを備えている。
政治的な主張や「哲学」とはほど遠い、すてきな「社説」である。
※ 『「抱っこの宿題、わすれんでね!』の原文は、 Youtube でも紹介されている(本書掲載の文章は、加除修正が加えられているようだ)。興味をそそられた方は、「耳で聴くみやざき中央新聞」の動画をどうぞ。
水谷もりひとさんと『みやざき中央新聞』
水谷もりひと氏(出典:産経新聞社)
水谷もりひとさんが、宮崎のローカル新聞の編集長を引き受けたのは1993年、33歳の時だった。
その1年前に宮崎にUターンし、週1回発行の「宮崎中央新聞」に入って間もない頃だ。親会社である建設会社の社長から「廃刊にしたいが、やりたければ譲る」と言われた水谷さんは、二つ返事で引き受けた。
発行部数500部程度の低迷する地方紙を引き継いだ水谷さん、ユニークな「いい新聞」を作りたいと考えた。自分が感動した講演を紹介したらどうだろうか、とひらめいた。
紙名を「みやざき中央新聞」に改め、再出発を図る。売りは中身の濃い講演記事と社説らしくない社説だ。
「社説は大上段の主張などせず、読んで心が揺さぶられる物語を必ず入れるようにしました」
やがて「面白くユニークな新聞」という評判が広がり、全国から購読の申込みが来るようになった。2020年現在、購読者は1万人を超え、その8割が宮崎県外だという。紙名も「日本講演新聞」と改めた。
本書『日本一心を揺るがす新聞の社説』は、水谷さんが過去20年間約1000本書き続けた社説の中から、自身で選び抜いた41本を一冊にまとめたものだ。
目利き編集長のおすすめから始まる「芋づる式」自己啓発
本書の魅力は、何といっても「心が揺さぶられる」エピソードが満載されていること。抱っこの宿題のような心温まるエピソードはもちろん、「こんな素晴らしい人物やドラマが存在したのか」という情報がてんこ盛りだ。
紹介された人物は、イチロー、黒沢明、米良美一、5代目・古今亭志ん生などの有名人だけでなく、福岡県警少年サポートセンター職員、夜間中学校教師、宮崎市内の知人、中には「日本アホ会」、「我武者羅(がむしゃら)応援団」などという奇妙な(失礼!)団体‥‥、と顔ぶれは実に多彩だ。
読者は、目利き編集長が探し出してきた旬の題材を味わい尽くせばよい。やがて元気が湧き、世界が少し広がって見えることに気づくだろう。
本書のもう一つの魅力は、興味をそそられた「人・モノ・コト」について、さらに知りたくなる点。取り上げ方、紹介のやり方がたくみなのだ。
押しつけがましさのない、誠実で温かみのある文章を読むと、勧められた本を読みたくなり、紹介された人物をネットで調べたくなる。
「この人が勧めるのなら、間違いはないだろう」と思わせてくれる安心感が感じられる。
本書が起点となって芋づる式に興味・関心が広がり、つながっていきそうな‥‥、そんな予感がする一冊である。
ちなみに小生は、現在本書の第3巻を読んでいるところ。水谷さんが紹介してくれた本も3冊読了し、推薦映画もレンタルDVDで視聴し終えたところだ。
心を揺さぶられたいあなた、ぜひ一読を。