書店のアウトドアコーナーで平積みされていた大型本が目にとまった。「福智山」という文字と、見慣れた福智山頂の写真に目を引かれたのだ。
書名は『福智山系徹底踏査!』、手にとって著者名を見ると挾間照生(はざま・てるお)と記されている。あの挾間さんだ! まだお元気で山歩きを続けていらっしゃったのか、と嬉しくなってきた。
挾間照生さん、驚くべき81歳!
北九州や筑豊地区の山愛好家の方で、挟間さんをご存じの方も多いと思う。すらりとした痩身、頭にまいたバンダナ、眼鏡の奥の優しい目‥‥、ストックを突いた立ち姿が実に絵になる方である。
数年に一度、山で遭遇した折に言葉を交わし、年賀状のやりとりをするぐらいのお付き合いだが、(小生が勝手に)敬愛してやまない山の大ベテランである。
小生が山歩きを始めた頃、未踏の山域について質問すると、後日ていねいなルート案内のお手紙と自作の概念図を郵送いただき、いたく恐縮したことがある。
失礼ながらもう結構なお年のはずだが、と本書の奥付ページを開いて驚いた。
■挟間 照生(はざま・てるお)
1939年、福岡県北九州市生まれ。高校、大学生時代がちょうど第一次登山ブームに当たり、父親の影響もあってそのころから山に親しみ、主に九州、山口の山を駆け回る。
その後、伯耆大山、石鎚山、北アルプスなどの遠征を経験。17歳のときに初めて登った福智山に魅了され、60年以上にわたって足繁く通い続けている。自他ともに認める福智山マイスターである。
「1939年、福岡県北九州市生まれ」ということは、現在81歳! 山でお会いした時の軽やかな身のこなしからはとても想像ができない。
さらに驚いたのは、本書の書名が『福智山系徹底踏査!』だったこと。「踏査」とは実際に出かけて行って調べること。本書で紹介された全28ルート(福智山系25ルート、皿倉山3ルート)を改めて歩き直されたのだろうか?
あとがきには「私にとっては既知のルートながらすべて再踏査いたしました」とある(歩行時間7時間超のロングルートも2つある)。う~ん、と絶句するばかり。
老いてなおますます盛ん! 体力、気力だけでなく、ガイドブック1冊を書き下ろす知力には敬服するしかない。
福智山系25ルートを分かりやすく紹介
本書の最大の特長は、南北30kmに及ぶ福智山系のうち、尺岳以南のエリアから25ルートを選び、著者自ら「できる限り最新の情報を盛り込むため」に全て踏査して書かれていること。
これまでのガイドブックや雑誌で紹介されるのはメインルートのみか、一つか二つのサブルートを付加したものばかり。福智山系のほぼ全ルートを網羅した類書は、これまでなかったと記憶する。
1ルートが4ページの構成で統一されており、各ルートの特徴、留意すべきポイント、アドバイス等が分かりやすくていねいに紹介されている。
小生がよく利用するルートの幾つかを拝読した。文章は簡潔明瞭、親切ていねいで分かりやすい。登山道の様子がありありと再現されており、何度も通い慣れた者だけが知る福智山の魅力や、初心者が見落としがちな留意点も書き込まれている。
私事で恐縮だが、福智山は小生が山歩きを始めた原点の山であり、最も多く訪れ(PCの山行記録では170回)、鍛えてもらった山でもある。山歩きを始めた頃にもしこの本が手元にあれば‥‥、という思いさえ湧いてくる。
本書は福智山系を「安全に楽しく」歩くためのバイブルであり、福智山をこよなく愛したレジェンドからの招待状でもある。北九州や筑豊地域で山歩きを始めたばかりの方、福智山をもっと知りたい方にぜひ手にとっていただきたいと思う。
挾間さんの今後のご健勝とご活躍を心から祈念したい。挾間さん、どこかの山でまたお会いできることを楽しみにしています。