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映画『ブータン 山の教室』(2) ~求められ、必要とされる倖せ~

投稿日:2022年1月10日 更新日:

ブータン 山の教室雪嶺を背に歌い踊る子ども達(出典:『ブータン 山の教室』公式サイト

 前回は、映画『ブータン 山の教室』で描かれた、ルナナ村の人々の謙虚で慎ましい生き方についてふれてみた。
 今回は、本作の他の魅力を紹介するとしよう。

※ なお、本記事はネタバレの話題満載のため、まだ映画をご覧になっていない方はご注意を! ネタバレを了解された方のみ、ご覧ください。

◆前回の記事はこちら >映画『ブータン 山の教室』(1) ~自然と共に「謙虚につつましく」生きる美しさ~

求められ、必要とされる倖せ

ブータン 山の教室授業に力を注ぎ始めるウゲン(出典:『ブータン 山の教室』公式サイト

 本作を視聴後に心をよぎったのは、「子どもが教師を育てる」と言う言葉。
 信頼してくれる子ども達にふさわしい先生でありたいと願い、精進・努力を重ねていくことで、教師の指導力と人間性が磨かれていくという意味。

 本作に登場する子ども達は9名、全員ルナナ村に実際に住む子どもだそうだ。都会の子どもには見られない素朴で自然な表情と演技は、実に新鮮である。

ブータン 山の教室ルナナ村の子ども達(出典:『ブータン 山の教室』公式サイト

 中でも小生の心を鷲づかみにしたのが、学級委員のペム・ザム(撮影当時9歳)。
 いやぁ、この子には心底まいった。

ブータン 山の教室ペム・ザム(出典:『ブータン 山の教室』公式サイト 

 キラキラとした瞳、無垢で屈託のない笑顔。先生への信頼と期待を宿したまっすぐな視線‥‥。
 今どきこんな純真な子どもが実在するのかと、妙に感心したものだ。
 ペム・ザムを含め、こんな目でまっすぐに先生を見つめる18の瞳‥‥。

 子どもだけでなく親や村人に尊敬され、必要とされ、感謝されるウゲン。教職に身を置く者として、これ以上の倖せはない。

 村長に「先生は子ども達の希望です」とまで言わしめた彼の成長ぶり。子ども達と一緒に学び、歌い、交流を重ねる映像は美しく、ほほえましい。
 見ているこちらまでもが倖せな気分になってくる。

ブータン 山の教室出典:『ブータン 山の教室』公式サイト 

 自分の好きなことをやるのが倖せなのか、周囲の人々からの求めに応えることが倖せなのか? 
 「やりたいことが見つからない」という若者が多いが、周囲から求められることをやってみるのも、一つの打開策かもしれない。

 

「歌を捧げる」とは? 

 ところで、この作品では歌が重要な役割を果たしているようだ。
 ルナナの人々は、生活の様々な場面で伝統歌を口ずさみ唱和する。日々の営みの中に歌が溶け込んでいるのがよく分かる。

 歌で特に強く印象に残っているのは、主人公ウゲンと「村一番の歌い手」(ペム・ザムによる)セデュとの出会いの場面。

 冬までの任期を終えた後は、オーストラリアで歌手として成功したいと考えているウゲン。ヒマラヤの山々を望む高台で、いつも「ヤクに捧げる歌」を歌っているセデュに興味を引かれない訳がない。

ブータン 山の教室セデュ(出典:『ブータン 山の教室』公式サイト

 ウゲンがセデュに抱く素朴な疑問は、「歌を聞く者が誰もいないのに、どうして歌うのか?」という点。この場面のやり取りが興味深いので、ビデオから文字起こしをしてみた。

「昨日も歌ってたよね。いつもここで歌を?」
(うなづくセデュ)
「どうして?」
「歌を捧げてるの」
(そのまま立ち去ろうとするセデュ)
「ねぇ待って。歌を捧げるってどういうこと?」
「歌を万物に捧げているのよ。人、動物、神々、この谷の精霊たちにね。」
「つまり?」
「オグロヅルは鳴く時、誰がどう思うかなんて考えない。ただ鳴く。私も同じ。」

 誰も聞く者がいないのになぜ歌うのかと問われ、「(万物に)歌を捧げているの」「誰がどう思うなんて考えない」と答えた言葉が強く印象に残った。

 セデュが歌う「ヤクに捧げる歌」は、この地に生きる人々の暮らしから自然に生まれ、親しまれ、歌い継がれてきたもの。

 歌い手はただ純粋に歌いたい、(万物に)思いを伝えたいと願い、その思いの発露が「歌う」ことだと言う。彼女にとって、他者から評価されることは問題外なのだ。

 流行することを目的に作られ、消費され、やがて忘れ去られていく現代の歌。そんな歌しか知らなかったウゲンには、目から鱗が落ちるような一言だったと思う。

ブータン 山の教室ウゲンとセデュの出会い(出典:『ブータン 山の教室』公式サイト

 任期を終え村を去るウゲンとの別れを惜しみ、長く封印していた「ヤクに捧げる歌」を歌ってくれた村長の思い。ウゲンとの別れの際に「オグロヅルのように歌って」と伝えたセデュの言葉。これらを踏まえると、シドニーの酒場で「ヤクに捧げる歌」を歌ったウゲンの心中も理解できそうだ。

 懐かしいルナナ村への郷愁のゆえなのか、オグロヅルのように歌う生き方を選んだのか、あれこれ想像する楽しさを提供してくれたラストシーンだった。

 『ブータン 山の教室』はすでに上映期間を終えているため、レンタルビデオか amazon Prime Video 等のオンデマンド配信でしか視聴できないようだ。いずれも有料となるが、一人でも多くの方にご覧いただきたい秀作である。

 若い教師のあなた、謙虚に慎ましく生きることに関心のあるあなた、そして山と自然が大好きなあなたに、ぜひお勧めしたい。

※ 公式サイトはこちら >『ブータン 山の教室』公式サイト

ブータン 山の教室美しく雄大な山岳風景が圧巻だ(出典:『ブータン 山の教室』公式サイト

 

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