あとからくる君たちへ

あとからくる君たちへ(10) おもしろきこともなき世を

投稿日:2018年11月8日 更新日:

おもしろき こともなき世を おもしろく

おもしろきこともなき世を

 「おもしろき こともなき世を おもしろく」

 この言葉、高杉晋作(たかすぎ・しんさく)のものとされています。長州藩(今の山口県)に生まれた高杉晋作は、江戸時代末の倒幕運動のリーダーとして大活躍し、明治維新へ続く道を開いた人物として有名です。

 動乱の時代を存分に生き、結核の病に倒れた二十八歳の晋作。病の床で「おもしろき こともなき世を おもしろく‥‥」と上の句を詠むと、看病していた野村望東尼(のむら・もとに)が「すみなすものは 心なりけり」と下の句を付けたとか。

 歌の大意は、「(大して)おもしろいこともないこの人の世をおもしろくするもの、(それは他でもない)私たちの心の持ちようであるよ」とでもなるでしょうか。

 同じものを見ても、見る人の視点や考え方しだいで、風景はその姿を百八十度変えてしまいます。アフリカに派遣された二人の靴のセールスマン。一人は「靴なんて売れるわけがない。みんな、はだしじゃないか!」と嘆き、もう一人は「誰も靴をはいてない。いくらでも売れるぞ。どんどん靴を送れ!」と叫んだとか。

 人生を「おもしろく」するもしないも、自分の「心」が決めるのです。ものの見方を変えるだけ、自分から一歩踏み出すだけで、明るい未来が開けてきそうではありませんか。

(平成26年2月「こもれびだより 12号」掲載記事を加除修正したもの)

 

追記

おもしろく生きるノウハウ

 60歳で定年退職した後、不登校の子どもたちを支援する施設に3年間勤務していた。本稿も、その施設の『こもれびだより』という施設だより(月1回発行)に寄稿したものである。ともすればネガティブになりがちな子どもたちが少しでも元気になれるような、そんな明るいネタをいつも探していた記憶がある。

 「おもしろきこともなき世」、ままにならぬこの世界を面白く生きる方法は、たぶん次の二つなのだろう。面白くない現状を「面白く変えてしまう」か、そのまま受け入れ「面白がることができる」かである。

 前者は「鳴かずんば 鳴かせてみせよう ホトトギス」(豊臣秀吉)という能動的な発想であり、後者は「鳴かずんば それもまたよし ホトトギス」(松下幸之助『キーワードで読む 松下幸之助ハンドブック』、PHP研究所)という受けとめる姿勢がポイントなのだろう。この二つを時と場合に応じて使い分けることが理想だと思う。

 不遇な状況、ままにならぬ現実を自らが望む方向に変えることで、人は「成長」し世界を変えてきた。また自らの手にあまる現実を受け入れ、それを面白がることの出来るとらわれない心、のびやかな精神により、人は「成熟」し文化が生まれる。

 鳴かないホトトギスでさえもよしとして、その価値を面白がれる柔軟さは、人生を楽しく生きる上で不可欠の資質ではあるまいか。

 

高杉晋作の最後

 高杉晋作の臨終の場面を、司馬遼太郎氏は次のように描いている。

 晋作は辞世の句を書くつもりであった。ちょっと考え、やがてみみずが這うような力のない文字で、書きはじめた。

おもしろき こともなき世を
 おもしろく

とまで書いたが、力が尽き、筆をおとしてしまった。晋作にすれば本来おもしろからぬ世のなかをずいぶん面白くすごしてきた。もはやなんの悔いもない、というつもりであったろうが、望東尼は、晋作のこの尻きれとんぼの辞世の下の句をつけてやらねばならないと思い、

「すみなすものは 心なりけり」
と書き、晋作の顔の上にかざした。(略)

‥‥晋作はいま一度目をひらいて、
 「‥‥面白いのう」
と微笑し、ふたたび昏睡状態に入り、ほどなく脈が絶えた。

(出典:司馬遼太郎『世に棲む日々』、文春文庫)

 史実そのままかどうかは不明だが、いかにも晋作らしい臨終の場面だと得心した記憶がある。司馬遼太郎は、世界の変革者である晋作と、受け入れがたい死を面白がれる晋作の両面を象徴的に描きたかったのだろうか、などと勝手な想像をめぐらしたものだ。

 伊藤博文が「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し」と評した高杉晋作。その葬儀の「参葬者は参千人」、「長州におけるあらゆる儀式のなかで空前の盛儀であった」(出典:前掲書)とのことである。

 

-あとからくる君たちへ
-, ,

執筆者:


  1. […] 本シリーズの次の記事へ >あとからくる君たちへ(10) おもしろきこともなき世を […]

関連記事

肩たたき券

あとからくる君たちへ(9) 三つの幸せと「くれない」族

 人生には「三つの幸せ」がある。これはイエローハットの創業者・鍵山秀三郎さんが、熊本県の中学校で講演された時のお話です。

世界の果ての通学路

あとからくる君たちへ(8) 映画『世界の果ての通学路』

「通学時間はどれくらい?」
「往復4時間、歩いて通っているよ。」
こんな会話が当たり前の世界に住む子どもたちの映画を紹介します。

弁当

あとからくる君たちへ(7) 自分で弁当を作る子どもたち

 このお弁当、おいしそうですね。小学5年生の児童が自分だけで作ったものだそうです。きっかけは、学校で「弁当の日」プロジェクトが始まったから。献立作り、買い出し、調理、弁当詰め、片づけまで、全部、やるのは子ども自身。先生も親も手伝わないで、自分だけで作った特製弁当です。

あとからくる君たちへ(24) 少女たちの「無言の説法」が会社を変えた

 前回に続き、日本理化学工業と大山泰弘社長(当時)の話です。今回は、大山さんが抱いた二つ目の疑問について紹介します。

箸

あとからくる君たちへ(6) 箸(はし)の話

 ある人が地獄と極楽を見学に出かけました。まず最初に見学したのは地獄です。目を引くのは、いたるところに設けられている大きな食卓です。どの食卓にもたいへんおいしそうなご馳走が、山のように並んでいます。


管理人の “がしん” です。
2018年3月にリタイヤしました。
このサイトは、シニアライフを楽しく生きるためのあれこれと、子や孫に語り伝えておきたい「人、もの、コト」の保管庫です。

【好きなこと】旅行、山歩き、映画鑑賞、読書、酒…
【好きな言葉】「着眼大局、着手小局」
【家族】妻と二人暮らし。子2人、孫2人

  • 15209総閲覧数:
  • 1558月別閲覧数:
  • 9714総訪問者数:
  • 1036月別訪問者数:
  • 2019年1月24日カウント開始日:
2019年7月
« 6月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031