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「15歳の娘、キリマンジャロから新たな挑戦」
キリマンジャロ登頂時の野口父娘(出典:野口健公式ウェブサイト)
昨日(2019年8月8日)朝食後に新聞に目を通していると、「15歳の娘、キリマンジャロから新たな挑戦」という文字が目に飛び込んできた。登山家の野口健氏が定期的に執筆しているコラム『直球&曲球』欄の記事タイトルである。
記事を読んでみると、野口氏と15歳の娘、絵子(えこ)さんが5年間のトレーニングの末、本年7月30日早朝(現地時間)、キリマンジャロのウフルピーク(5,895m)に登頂を果たしたとのこと。
登頂時の過酷な天候とピークを踏んだ喜びは、次のように描写されている。
最終キャンプまでは天候に恵まれ、快適な登山が5日間。そして最後の山頂アタックが始まる。午前零時にアタツク開始。満天の星。しかし午前3時くらいから、ガスが出て、山頂方面からゴォーと不気味な音が。そして、山頂につながる尾根の手前から歩行困難な強風。まるでブリザードだ。全身がいてつく寒さ。
あまりの寒さのなか、睡魔に襲われ、反応が鈍くなる娘の体をたたいて刺激を与え続けた。暗闇の中、体が吹き飛ばされないよう互いの体をつかみながら一歩一歩。そして午前6時ごろ、目の前に山頂のポールが現れた。その瞬間、気がついたら2人で抱き合い、涙を流していた。この状況でよくやった!
(出典:「15歳の娘、キリマンジャロから新たな挑戦」(野口健、産経新聞2019年8月8日))
野口氏自身、キリマンジャロは3度目の登頂(1度目は16歳の時)だったが、今回が最も厳しい登山だったと述懐している。
あいにく、この記事には登山の写真が掲載されていなかったので、早速野口氏の公式ウェブサイトをのぞいてみた。すると2019年8月1日のブログ「キリマンジャロ登頂」の記事がアップされており、登頂時の写真も公開されていた。
出典:野口健公式ウェブサイト
なるほど、眉毛まで凍り付いているではないか。6,000m近い山頂の極寒のすさまじさが伝わってくる。絵子さんによると、髪もまつ毛も凍り付き、ダウンジャケット3枚とダウンパンツをはいて寒さに耐えたとか。
娘の目から見たキリマンジャロ登頂
絵子さんが最近ブログを開設したとの情報も目にしたので、こちらものぞいてみた。
キリマンジャロ登頂前後の記述は、やはり迫力がある。少し長くなるが引用してみよう。
どこを見渡しても白で崖があるのかそれとも平の地面があるのか。少し力を抜けば、飛ばされそうな風に抵抗しながら重心を低く前へ前へ。
見えた、あれだ!凍える手をポケットに入れ温めながら、飛んでくるあられを避けて下げていた頭をあげる。私が写真で見てきたあのポールが真っ白に凍った状態で目の前に現れた、頂上だ、頂上、頂上、頂上。
ついた、ついに頂上についた。自分が登りたかったキリマンジャロの頂上。実感が湧くようで湧かないこの気持ち。自然と涙が出た。
父に抱きついて、嬉しさを分かちあった。キリマンジャロなんだ。今、私は頂上に立ってる!嬉しい!自分はとても幸せ!(出典:「奇想天外 〜キリマンジャロ登山を終えて〜(2019/08/06)」/野口絵子公式サイト)
出典:野口健公式ウェブサイト
午前0時にアタックを開始。約6時間にも及ぶ辛い登りにもかかわらず、凍てつく寒さに震えながら「嬉しい!」「とても幸せ!」と感動できる若さ。素晴らしいなと思う。写真からも心からの喜びが伝わってくる。
「していい無理」と「してはいけない無理」
野口健氏と絵子さん(出典:野口健公式ウェブサイト)
「していい無理」と「してはいけない無理」。前掲の父・健氏の記事と娘・絵子さんのブログ記事に共通して登場する言葉がこれ。
野口氏によれば、登山で最も大切な判断能力だそうだ。この能力を養うために小学生の絵子さんを八ヶ岳縦走に連れて行き、16時間ぐらいほぼ休みなしで歩かせたり、あえて悪天候の日に山を歩く訓練も行ったとか。
今回も疲労と寒さで意識がもうろうとしている絵子さんを、登頂させるかどうかを判断する基準となったという。
10歳の女の子の「キリマンジャロに登りたい」という一言から始まった挑戦の5年間。目標達成に向け進み続けた絵子さんの成長も素晴らしいが、娘を「山岳部の合宿」なみに鍛えつつ共に歩む、という難しい役どころを全うした父にも大きな拍手を送りたい。
※ 前掲の野口氏のコラム記事ページへリンクを張っておく。興味のある方はご覧いただきたい。