昨年10月から木工教室に通い始めた。月に2回のペースなので、進歩は遅々としたものだ。それでも作品が完成した時は、嬉しいものである。今回は掛け軸を収納する桐箱が完成したので、お披露目させていただこう。
※ 前回の木工体験教室の記事はこちら >木工体験教室に参加、バターナイフを作ってみた。
目次
木の器、小箱、これまでの作品
小生が通っている「家具工房 treehouse」の木工教室のカリキュラムでは、最初にバターナイフ、スプーン、コースターなどの小物や木の器を製作。その後、小箱(ペンケース)から組手加工を経て本格的な箱の製作へ進むことになっている。
小生の作品を二つほどお披露目させていただく。
まずは、幅30cm、奥行き18cmほどの木の器。クルミの厚板材を糸のこで楕円形に切り、後は丸ノミ1本で削って作ったもの。集中力を養い、木工用刃物への慣れと木材(広葉樹)の材質を体感するために製作した。
次は、小箱(ペンケース)。奥2つは練習用の試作品である。手前の小箱が完成品で、材質はウォールナット。木釘と接着剤で組み立て、研磨後にオイルを塗ると、美しい木目が浮かび上がる。柔らかい手触りと独特の光沢がが何とも言えない。
そして現在は、「三枚組手」の練習中。次の写真のような箱を作るために、四隅を釘を使わず「組手」で組む加工である。
出典:ブログ「家具工房に捧ぐ」(木工教室の北野先生の個人ブログです)
教室の北野先生曰く、「加工面の露出する組手加工は特に難しい。ここが一つ目の山、正念場です。何度も失敗を繰り返しながら、スキルアップしてください」とのこと。
練習で10回以上作ってみるものの、なかなかうまくいかず悪戦苦闘の日々が続いている。
出典:ブログ「家具工房に捧ぐ」
掛け軸収納箱を作る
さて、掛け軸収納箱の話である。事の発端は、昨年師走の奈良・京都旅行で購入した掛け軸(古美術品)のうち、収納箱がないものが数本あったこと。ネットで桐の収納箱を検索すると、1本5,000円前後の値段がついている(桐の材質や細工等で価格が違うようだ)。1本数千円程度の軸にその値段の箱を購入するのはさすがにためらわれ、そのまま放置しておいた。
しかし虫食い予防と保管・整理上は、収納箱があった方が都合がよい。北野先生に相談してみると「自分で作ってみたらどうですか? 桐材はこちらで手配してあげますよ」との親切な申し出。「教室で小箱を製作した要領で、スキルアップも兼ねチャレンジしてみては」とのアドバイスもいただき、挑戦してみることにした。
とは言え、超初心者ができることは限られている。木取り、桐材の切断、製作指導は先生にお任せ。小生が担当したのは、採寸、枠組み(組み立て)、角の面取り、かんな掛け、軸受け製作、研磨(ペーパーやすり)等の作業である。
4本の桐箱は全てサイズが違うため、軸がうまく収まるか何度も確認しながらの作業だった。2月から取りかかり、3時間30分の作業時間×4回で完成。我ながら、段取りと要領の悪さのがよく分かる。
桐箱を作ってみて‥‥
今回、桐箱を作って感じたのは、ものづくりの大変さと完成したときの喜びの大きさである。一見すると何ということのない木箱一つ作るのに、これだけの工程と手間暇がかけられているとは思わなかった。自分で作ってこそ分かる製作者の苦労である。
また技術が身についていないと、杜撰な作品になるだけでなく、やたらと時間がかかることも実感した。
これだけの手間と労力をかけたものだけに、あだやおろそかにはできない。愛着とともに「大切にせねば」という気持ちが、自然に湧き起こってくる。
「無心」になって、ものづくりに没頭する時間を持てたことも大きな成果である。作業を始めると、時の経つのが本当に早い。作業開始2時間後のコーヒータイムまで、あっという間に時間が経過しているのだ。
以前、木工教室を体験したときの感想に新たに「無心」の一行を加えておこう。
ものづくりは、手と身体を動かすことで、頭と心を活性化する。
ものづくりは、無心で一事に没頭できる、貴重な機会である。
ものづくりは、自分の完成形を求めて、創意工夫する面白さがある。
ものづくりは、成果が具体的に見えるため、達成する喜びがある。
ものづくりは、「不自由を楽しむ」いとなみである。
「不自由を楽しむ」、もしかしたら最高のぜいたくなのかもしれない。
掛け軸の楽しみ
ところで桐箱に収める掛け軸だが、季節の移り変わりとともに掛けかえるのが楽しみになっている。
掛け軸に興味を持ったのは、60歳の晩秋の頃である。旅先の松江市でとある古美術店をふらりとのぞくと、駒鳥と梅花が描かれた1本の軸を見つけた。これをカミさんがえらく気に入り、購入したのがきっかけである。以後、旅に出る度に訪問地の古美術店や骨董屋に立ち寄り、気に入ったものを1本2本と買い足してきた。
マンション住まいのため、わが家の床の間は幅1間ほどの小さなものだが、それでも軸を掛け替えると部屋の雰囲気ががらりと変わる。季節や行事、気分に応じて軸を掛け替えると、なかなか楽しい。新年が近づくと慶賀用の松と鶴の軸、立春の頃には梅花を描いた軸、晩秋には古寺と紅葉をあしらった軸‥‥と、折々の楽しみになってきた。
これは、数日前までかけていた広瀬淡窓の漢詩「桂林荘雑詠諸生に示す」の軸(飛騨高山で購入)。立派とは言えない紙の表装で安価な軸だったが、詩が気に入って購入した。私塾「桂林荘」で勉学に励む若者たちの友情が詠まれている。
淡窓の漢詩に変えて新しく掛けたのは、春ののどかな自然を描いた(と勝手に感じている)山水画。春にふさわしい淡い色彩が気に入っている。年末に京都東寺の「弘法市」で購入したもの。
生活の洋風化に伴って床の間を設けない和室が増え、掛け軸の売れ行きは長く低迷しているようだ。年代物の軸もかなり値引きされているようで、年金生活者にとっては有り難いが、少し寂しい気もする。
そういえば、奈良の古美術店で熱心に掛け軸を物色している欧米人の姿が目についた。「クールジャパン」の一環で、掛け軸の良さが欧米で再評価されるかもしれないなぁ。