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あとからくる君たちへ(25) 清掃のプロをめざして~心で磨く、心を磨く~

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「世界一清潔な空港」に選ばれた羽田空港

羽田空港出典:東京国際空港/ウィキペディア(Wikipedia)
Haneda_Airport_Terminal1_MarketPlace.jpg、RGB256氏撮影

 イギリスの「SKYTRAX社」が毎年発表している格付けによると、羽田空港(正式名称は「東京国際空港」)は、全世界に550以上ある空港の中で「世界一清潔な空港」の栄冠に輝いているそうです。しかも2013年以降の6年間で、実に5回ものトップランキング入りだとか。

「世界一清潔な空港」に選ばれ続ける羽田空港。その最大の功労者の一人が、今回紹介する新津春子(にいつ・はるこ)さんです。

 

清掃の「職人」、プロとしての技術と誇り

新津春子出典:「これが世界一の掃除力!新津春子に学ぶプロフェッショナルの仕事術」/致知出版社

 新津さんが清掃の仕事を始めたのは17歳、最初はアルバイトだったそうです。その後25歳で羽田空港の清掃員として採用され、2018年までの24年間、空港の清掃に取り組んできました。

 全国ビルクリーニング技能競技会で最年少で全国1位に輝いたのが27歳。国内に数万人いるビルクリーニング技能士の頂点に立った新津さんの技術は、「職人芸」とも言える見事さです。

 80種類以上の洗剤と50種類の清掃道具を駆使し、空港内のあらゆる場所の困難な汚れを素早く、ていねいにきれいにしていきます。清掃道具は自作したものやメーカーと共同開発した物まであるそうです。 

 その仕事ぶりは2015年2月と6月に放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHKテレビ)で紹介され、大きな反響を呼びました。新津さんの仕事ぶりを、少しだけ紹介してみましょう。

 たとえばトイレ。1日の利用者が20万人を超える羽田空港のトイレは、汚れが最も目立つ場所の一つです。新津さんはトイレの壁から便器の裏まで、丁寧に徹底的に磨き上げていきます。便器の裏側や見えにくい部分は、手鏡で一つ一つチェックしていきます。

 洗った手を乾かす乾燥機。外見はきれいになっても「臭いが気になるから」と分解し、雑菌の繁殖する排水口を特製のブラシで掃除。見えない所、かすかな臭いにも気を配っています。

 冷水機のステンレスのくすみ。数種類の洗剤で2時間かけて磨き上げ、美しい輝きをとりもどしたこともありました。

 どうしてそこまでするのか。新津さんは笑ってこう答えたそうです。

「自分の仕事を職人の仕事だって思ってるの。清掃を超えた職人の仕事。だから、できないって悔しいじゃない?」

「職人」という言葉に、新津さんのプロ意識がかいま見えるようです。

 

「清掃はやさしさ」、心を込めないときれいにできない。

新津春子出典:新津春子『清掃はやさしさ』、ポプラ社

 一見きれいに見える空港ロビーの床、新津さんはかすかに舞うホコリも見逃しません。普通の人が気づかないようなホコリを、離れた場所から見つけてはていねいに拭きとります。

「小さな子どもさんは、この床をはって遊ぶんです。それにアレルギーの方もいらっしゃいますからね。」

 コインロッカーは、外側の扉だけでなく内部のすみずみまで毎日拭き上げます。中の汚れがお客様の荷物を汚さないようにとの配慮です。食品の臭いが残っている場合もあるので、きちんと消臭します。

 新津さんの仕事は、単に汚れを落とすだけではありません。空港を行き交う多くの利用者の邪魔にならないような身のこなしと、笑顔も求められます。時には仕事を中断して、お客様を案内することもあるといいます。

 新津さんは自らの「仕事の流儀」を、次のように語っています。

「心を込める、ということです。心とは、自分の優しい気持ちですね。清掃をするものや、それを使う人を思いやる気持ちです。
 心を込めないと本当の意味で、きれいにできないんですね。そのものや使う人のためにどこまでできるかを、常に考えて清掃しています。
 心を込めればいろんなことも思いつくし、自分の気持ちの安らぎができると、人にも幸せを与えられると思うのね。」

(出典:新津春子『世界一清潔な空港の清掃人』、朝日新聞出版)

「新津さんの仕事は心で磨き、心を磨く仕事なんだね」とある時言われたことがあると、嬉しそうに話していました。

 1999年、新津さんは29歳で「職業訓練指導員免許」を取得し、人材を育成する仕事に携わることが多くなりました。自分が身につけた技術と心を込めた清掃のやり方、この二つを羽田空港の清掃スタッフに伝え、指導していく仕事に挑戦することになったのです。

 それから14年、新津さんが指導・監督するスタッフは500名を越え、2013年には「世界一清潔な空港」に選ばれるという栄冠に輝くことになりました。

 一人の女性が種をまき、水や肥料を与えて育ててきた「やさしい清掃」の果実が、たわわに実を結んだのです。

 「えっ? どうして新津さんはそこまで清掃に打ち込むようになったのか?」って。それはまた別の機会にでも話すことにしましょうか。

 

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