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「もし君が世界を変えたいと思ったら、何をしますか?」
社会科の授業で先生からこんな課題を与えられたら、あなたはどうしますか?
「政治家になって、社会を変えていく」、「 YouTube で情報発信して、人々の意識を変えていく」、「荒野に木を植え続け、緑の大地を増やしていく」‥‥。どうしたら世界をより良いものにできるか、大変そうだが夢のあるテーマです。
映画『ペイ・フォワード(原題 “Pay it forward” )』(2000年、米)は、「世界を変える方法を考え、それを実行してみよう」、こんな課題を与えられたアメリカの中学生トレバーの物語です。
世界を変えるために、トレバーは何を考え、実行したのか。彼が始めたのは「自分が誰かから受けた思いやりや善意を、その相手に返すのではなく、別の3人の誰かに渡す」というもの。こうすれば、思いやりや善意は次々に広がっていきます。
最初の一人が3人に送った善意は、2世代目には9人に、3世代目には27人に、そして10世代目には59,049人に広がっていきます。20世代目には、何と34億8600万人以上もの人々が、誰かから思いやりや善意を受け取ることになります。
さらにこの活動の素晴らしいのは、お金も社会的な力を持たない小さな子どもでも、今すぐ始められること。
映画の原題は “Pay it forward.”、「次へ手渡せ」とでも訳すのでしょうか。この映画を15年以上前に見終えた私は、「恩送り」という懐かしい言葉を思い出したのです。
「恩返し」より「恩送り」
「恩送り」とは誰かから親切や善意を受けたら、それを直接相手に返すのではなく、ほかの誰かに送っていくこと。たとえば、東日本大震災で被災した人たちが、「私たちも多くの人に助けられたから」と熊本地震、西日本豪雨などの被災地に支援の手を差し伸べたのも、恩送りの典型的な例です。
どうして「恩返し」より「恩送り」と言われるのでしょう。「恩返し」もそれなりに大切ですよね。
私なりに考えた「恩送り」の良さは、次のような点です。
- 「恩返し」は、恩を与えた人と恩を返す人の2人の間で完結する。一方「恩送り」は、人から人へと無限に広がっていく可能性がある。
- 相手を限定しない「恩送り」なら、「今ここで」始めることができる。誰でも、誰に対してでも、小さなことでも、短い時間でもできる。
例:玄関の靴を揃えてやる。道路を横断しようとする目の不自由な方を手伝う。落とし物を拾ってあげる‥‥。 - 「恩送り」なら、相手の「恩返し」を期待することもない。相手が別の誰かに恩を送ってくれると思えば、返してもらわなくてもよいと割り切れる。
- 「恩送り」なら、返せない恩も送ることができる。すでに亡くなった方々への恩、遠く離れた地や外国にいる方々への恩、これらの返せない恩にも報いることができる。
「親孝行をしようと思うのなら、その分を子どもへしてやりなさい」。亡くなった母がよく言ってくれた言葉です。同年に逝去した義母(妻の母親)も同じ言葉を繰り返していたとか。
親からもらった愛情を自分の子どもに手渡していく。私の両親もその親から手渡された愛情を、私たちに注いでくれたのでしょう。こうやって「恩送り」は、何世代にもわたり脈々と連なっていくのです。
追記
1 ”Kindness Boomerang” (思いやりのブーメラン)を推奨する動画をYouTubeで見つけた。アメリカ版「情けは人のためならず」である。
2 「生きているということは」(永六輔 作詞、中村八大 作曲)の歌詞
「恩送り」という言葉を聞くと、この歌を思い出す。
生きているということは
作詞:永六輔
作曲:中村八大生きているということは 誰かに借りをつくること
生きていくということは その借りを返していくこと
誰かに借りたら 誰かに返そう
誰かにそうしてもらったように 誰かにそうしてあげよう生きていくということは 誰かと手をつなぐこと
つないだ手の温もりを 忘れないでいること
めぐり逢い愛しあい やがて別れの日
その時に悔やまないように 今日を明日を生きよう人は一人では生きてゆけない
誰も一人では歩いてゆけない生きているということは 誰かに借りを作ること
生きていくということは その借りを返していくこと
誰かに借りたら 誰かに返そう
誰かにそうしてもらった様に 誰かにそうしてあげよう
誰かにそうしてあげよう 誰かにそうしてあげよう
動画埋め込みが禁止されているので、上条恒彦の動画へのリンクを貼っておくことにする。
※ 上条恒彦の歌はこちら >「生きているということは」
◆本シリーズの次の記事はこちら >あとからくる君たちへ(28) 人を幸せにする二つの脳内物質
◆本シリーズの他の記事はこちら >シリーズ「あとからくる君たちへ」関連記事へのリンク