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プロジェクトXあれこれ(4) 高精細映像化で番組がよみがえる!

投稿日:2021年4月6日 更新日:

 あの『プロジェクトX』が21年ぶりに再放送されるというニュースを耳にした。しかも最新技術でリストア(修復)された高精細映像版だそうだ。

 再放送第1回(3月30日)分を視聴し、その個人的な感想を書きとめてみた。

◆前回の記事はこちら >プロジェクトXあれこれ(3) 43分の番組に3ヶ月かける贅沢さ

目次

『プロジェクトX』が4K高精細映像で復活!

 21年前に放送がスタートし、一世を風靡(ふうび)したNHK番組『プロジェクトX』の再放送が始まった。

今夜9時放送「プロジェクトX 挑戦者たち 4K版」。NHK BSP/BS4K同時

NHKは、30日夜9時から、高精細映像化した「プロジェクトX 挑戦者たち 4Kリストア版」をBSプレミアムとBS4Kで同時放送する。

30日の初回は、2000年3月に放送された記念すべき第1回「巨大台風から日本を守れ~富士山頂・男たちは命をかけた~」。高山病をはじめ、多くの困難と戦いながら、世界最大の気象レーダー建設に情熱を傾けた官民プロジェクトの壮大なドラマを描く。

4月6日は、津軽海峡の海底を貫く世界最長の青函トンネルがテーマ。歴史的難工事は24年に 及んだ。次々と事故で倒れる仲間たち。友の死を胸に刻み、青函トンネルに人生をかけた男たちの苦闘を描く。

「プロジェクトX 挑戦者たち」は、無名の日本人を主人公に、新製品の研究開発、社会的事件、巨大プロジェクトなどに焦点を当て、その成功の陰にあった知られざるドラマを伝える“組織と群像の物語”。音楽は中島みゆき。語りは田口トモロヲ。2000年から2005年まで放送された。

(出典:「AV Watch」)

 昨年、「『プロジェクトX』誕生のいきさつが知りたい」という個人的興味から、本ブログで3本の記事をアップした小生。朗報を聞き、さっそく録画を予約。週末(4/3~4/4)に視聴してみた。以下、その折の感想である。

◆ プロジェクトXに関する過去記事はこちら >
 プロジェクトXあれこれ(3) 43分の番組に3ヶ月かける贅沢さ
 プロジェクトXあれこれ(2) ~「ダイエットX」と冷やかされた立ち上げ当初~
 「プロジェクトX」あれこれ (1) ~番組誕生のいきさつが知りたい~

リストアで美しく見やすくなった映像

富士山レーダー(出典:気象庁ホームページ)

 番組前の時間帯で4Kリストア化の映像修復の様子が、簡単に紹介されていた。

 聞けば映像のノイズ(汚れ)を取り除き、明るくはっきりとした画像に生まれ変わったとか。なるほどオリジナルと比較してみると、確かに鮮明な映像になっている。心なしか音声までもが良くなった(気がする)。

 わが家のテレビは4Kではないが、それでもBSデジタルの映像の美しさはよく分かった。期待しながら第1回放送「巨大台風から日本を守れ~富士山頂・男たちは命をかけた~」を視聴した。

 本作をテレビで見た記憶はない。恐らく初めての視聴だったと思う。

ゲストは松阪慶子?

出典:大成建設ホームページ

 番組が始まり何より驚いたのは、ゲストとして女優の松阪慶子と出版プロデューサーの見城徹氏が紹介された時。何でも松坂は「富士山が大好き」で、見城氏は「静岡県出身で富士山を見て育った」のだとか。

 富士山レーダーと何のゆかりもないゲストにコメントを求めるのか、と思わず失笑。

 「ほんとねぇ‥‥、皆さんご自分のお仕事が好きだったんでしょうねぇ」との松坂のコメントには、絶句せざるを得なかった。。

 別に松阪慶子が悪いわけではない。命を賭けてプロジェクトに取り組む人々の映像後に、プロジェクトとは無関係の有名人にコメントを求める、という制作手法に唖然とさせられたのだ。

 視聴者が求めているのは、ターニングポイントの場面で、実際に体を張り、泥と油にまみれていた当事者の肉声である。内面からほとばしり出た真実の声は重く、人の心を打ち、揺さぶる。

 プロデューサーであった今井彰氏の著書『ゆれるあなたに贈る言葉』によれば、無名のプロジェクト関係者を番組に呼ぶと言い出すと、周囲全員が反対の声を挙げたとか。「何故、話も上手ではない素人をスタジオに呼ぶのかと怒りに満ちた声すらあった」そうだ。

 当時の番組制作の常識を打ち破り、プロジェクト関係者の生の声を聞けるようになるのは、どの回からだろうか? これも再放送を見る楽しみの一つである。

今井彰今井彰氏(出典:今井彰 Facebook

 

田口トモロヲのナレーション

田口トモロヲ(出典:日本放送協会)

 第1回放送では、俗に「プロジェクトX」節(ぶし)と呼ばれる、あの独特のナレーションはまだ聞かれない。
 原稿は普通のスピードで読まれ、聞き流してしまいそうな平凡なナレーションだった。注意して耳を傾けなければ田口トモロヲとは気づかない。
 独特の「間」がないのだ。

 ナレーション原稿も担当していたプロデューサーの今井は、次のように記している。

 プロジェクトXのナレーションが何故熱狂的に受け入れられたのか?

 それは文章を徹底して削り落として、全体の文章量を減らし、間を作ることを心がけたからだ。
 流行語にもなったが「~だった」で終わると一呼吸置いた。

 ‥‥言葉が終わった後に余韻を響かせたかった。

(出典:今井彰『ゆれるあなたに贈る言葉』)

 「番組の鬼」と言われた今井は、映像1カット、ナレーション1行に至るまで一切妥協しない男だったとか。この今井の熱に促され、あの独特のナレーションが生まれていったのだろう。

 どの回あたりからナレーションのスタイルが定まっていくのか、これも楽しみである。

 

中島みゆきのテーマ曲

 松坂慶子とは別の意味で驚かされたのは、テーマ曲の完成度の高さ。

 番組冒頭の「地上の星」、エンディングで流れる「ヘッドライト・テールライト」、共に番組のコンセプト「無名の日本人たちの挑戦の物語」というテーマを見事に歌い上げている。

 番組にぴったりの楽曲でありながら、時代を超えた普遍性も兼ね備えており、改めて名曲であることを再認識した次第。

 見たことも聞いたこともない番組の企画書を読み込むだけで、『プロジェクトX』という番組の特長と本質をあますことなく表現できるとは。しかも作詞、作曲、歌唱の全てをこなす中島みゆきの才能のきらめき‥‥、畏れ入るしかない(ちなみに小生、中島みゆきと同年齢なのだ)。

 また、一面識もない中島を手紙でくどき落し、テーマ曲創作の意欲を喚起した今井彰の企画書の凄さにも舌を巻くしかない。本気の心は、本気で生きる人の心を揺さぶるのだろう。

 

『プロジェクトX』を次世代に伝えたい! 

 現在発表されている、リストア4K版の再放送予定は以下のとおりである。放送時間は火曜夜9時から。

  • 4月 6日 「友の死を越えて~青函トンネル・24年の大工事~」
  • 4月13日 「東京タワー・恋人たちの戦い~世界一のテレビ塔建設・333mの難工事~」
  • 4月20日 「執念が生んだ新幹線 ~老友90歳・飛行機が姿を変えた~」
  • 4月27日 「えりも岬に春を呼べ~『砂漠』を森に・北の家族の半世紀~」

 5月以降の放送予定が未定なのは、視聴者の反応をみて番組継続か打ち切りかを判断するつもりなのだろう。この番組の再放送継続を強く願うのは小生だけだろうか。

 5年以上にわたり全196回放送された『プロジェクトX』。この番組には、我々の父母たちの苦闘と生きた証(あかし)が見事に記録されている。敗戦によって廃墟となった日本をゼロから復興させた、無名の日本人たちの尊い足跡。

 ぜひ、今回の再放送が長く続いてほしい。同時に「次世代に伝える日本人の記録」(仮称)としてアーカイブ(保管庫)化し、無料でネット配信してもらいたいと思う。

 学校教育のデジタル化を進める国の「GIGAスクール構想」によれば、全国の大半の公立小中学校で、2021年3月までに全児童生徒へPCあるいはタブレット端末が1人1台配布済みとのこと。

 「君らのひい爺ちゃんの世代がこんなに頑張ったから、今の日本と君があるんだよ。」
 次世代を担う子どもたちに、こう伝える格好の教材だと思っている。

 今日は4月6日(火)、青函トンネルを24年間掘り続けた男の物語が再放送される日だ。

青函トンネル開通を祝い乾杯する関係者(出典:HUFFPOST)

 

よろしければ、映画や映像作品に関する他記事もどうぞ。「書きたい」と思った作品の記事だけなので、数は多くはありません。お役に立つ情報があれば幸いです。

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