シニアライフを語るのに、年金の話題は避けて通れない。大半の高齢者の収入の基盤は、2ヶ月に1回支給される年金だからだ。
今回はその年金について、「目からうろこ」の思いをした書籍を紹介させていただこう。書名は『知らないと損する年金の真実』(大江英樹著、ワニブックス)。
小生と同様、公的年金について漠然とした不安や不信感を抱いていらっしゃる方々にお勧めしたい。
目次
それは『日本講演新聞』の記事から始まった
本年の5月24日、定期購読をしている『日本講演新聞』2884号の第一面に、「年金は破綻しません! まちがいだらけの公的年金知識」という文字が踊っていた。
かねてから「年金制度って大丈夫だろうか」と、漠然とした不安を抱いていた小生、すぐ読み始めたのは言うまでもない。ちなみに『日本講演新聞』は全国各地で開催された講演会の内容を、講演者の了解を得て紹介しているユニークな新聞で、小生の情報源の一つである。
全4回にわたる連載(5/24、6/7、6/14、6/21 掲載)を読み終え、自分が年金についていかに間違った理解をし、信じ込んでいたかを痛感させられた。
同時に日本の年金制度がすこぶる健全であることもよく分かり、安心したという次第。もちろん、子どもたちや孫たち(次世代)の老後が心配だったからだ。
著者の大江英樹氏のことは全く知らなかったので、ネット検索すると YouTube で氏の動画『大江英樹氏が解説! 「年金基本のキ』」(8分18秒、投資信託協会チャンネル)を見つけることができた。
この他にもNHKラジオの『ラジオ深夜便』で氏が年金について分かりやすく解説している動画(音声のみ)も視聴し、「この人の本を読んでみたい」と強く興味を引かれた。
難しい問題を分かりやすく話すには、かなりの知見と聞き手への細やかな配慮が必要だからだ。
その後、本年10月に本書『知らないと損する年金の真実』が出版されると知り、amazonで予約。昨日読み終えたばかりだ。
※ 『日本講演新聞』に関する過去の記事はこちら >『日本講演新聞』、「感動・驚き・発見」を共有してみては?
本書をお勧めする理由
年金制度には、ぼんやりとした不安と疑念がつきまとっている(ように感じる)。
たとえば、次のような「年金不安」である。
- 年金財政は赤字だ
- 少子高齢化が進むので、制度を支えきれない
- 若者は払い損だ(掛けた年金額の分だけもらえるのか)
- 年金は無駄遣いをしているから破綻する
- 年金の運用は赤字続き
- 未納者が4割もいるから破綻する
本書の筆者大江氏によれば、年金不安が広く流布している理由は、
- 経験していないことだから
- 年金不安を煽(あお)る人たちがいるから
具体的には、「マスコミ、金融機関、野党」 - 年金について間違った理解をしているから
本人は「分かったつもり」で信じているから、深刻
だそうである。
小生は既に年金を受給しているし、「マスコミ、金融機関、野党」は基本的に信用していないので、上記1、2は当てはまりそうにない。
しかし「間違った理解をしている」という指摘には、残念ながら同意せざるを得なかった。本書を読み終え、自身の年金理解が間違いだらけだったことを思い知らされたのだ。
本書は「ごく素人目線で年金の誤解をわかりやすく」説明することに徹している。
また、氏の「正しい知識をエビデンスを交えて」語る姿勢には、好感がもてる(明確な根拠やデータの裏付けなしに、情緒で語る「専門家」やコメンテーターが何と多いことか!)。
「少子高齢化が進み、年金制度が崩壊する」という誤解
大江氏が「年金に対する間違った理解」とする一例を、紹介させていただこう。「少子高齢化が進むことにより、年金制度は将来崩壊する」という誤解の解説である。
なお、図表は本書から、説明は氏の講演録「まちがいだらけの公的年金知識 No.4」(『日本講演新聞』2887号)からの引用である(書籍から引用すると長くなるため)。
「若者が何人で高齢者を支えているか」というイメージ図を見たことはありませんか?
「昔はおみこし型でたくさんの人が1人のお年寄りを支えていました。それが今は騎馬戦型になって、4~5人で1人を支えています。将来は肩車型になります」というようなものです。
実は、これは結構いいかげんです。これは単に年齢で切っただけの印象論だからです。
私は疑り深い性格なので、実際に調べてみました。
このケースで大事なことは、「何人で1人のお年寄りを支えるか」ということではなく、「1人の働いている人が何人の働いていない人を支えているか」ということなんです。
つまり「1人の就労者が何人の非就労者を養っているか」。それを調べてみると、印象論とは全然違った結果が出ました。
データのある直近の数字でいうと、2020年は1人で0.89人を養っています。1990年だと1人が0.96人、1人が1人を養っている。1970年は1人で1.05人を養っていました。
2040年にはどうなっているかというと、推計すると1人で0.96人を養います。このように見ると、ほぼ変わっていないんですね。
何でこういうことになると思いますか?
それは、昔と比べて働く人が増えてきているからであり、働く期間が長くなっているからです。
今は60歳~65歳の84%が働いています。70歳でも働いている人は50%くらいいます。
それから、1970年は専業主婦の割合が7割くらいでした。現在は、純然たる専業主婦家庭は約10%というデータもあります。
今は高齢者も働いていて、既婚の女性も働いている。そのため昔より働く人が増えているのです。
働いていない人を支えるということでいうと、今後20年経ってもその割合は変わりません。
だから「少子高齢化だから支えきれない」とは言い切れないのですね。
本書ではこの事例だけでなく、先に挙げた様々な「年金不安」を一つずつ分かりやすく否定してくれている。もちろん根拠となる条文や統計も明示されているので、説得力に富む。
安心感と信頼は正しい理解から
9月に実施された自民党総裁選挙で、「基礎年金(国民年金)の財源を全額消費税としたい」との政策を主張した候補者がいた。低所得の老人であっても、国民年金を満額支給できるようにするのが目的だそうだ。消費税の大幅増税につながるとの批判を浴び、自説を引き下げたとか。
本書を読み終えた小生、こんなことを考えた。年金制度の根幹の一つは「公平」であること。この候補者の主張は、きわめて不公平ではあるまいかと。
現役時に保険料を多く負担した者は老後の年金額も多くなり、保険料をきちんと納めなければ、受け取る年金の額も減る。誰が見ても当たり前のことであり、公平である。
もし「これからは保険料を長年支払った者も、保険料を全く納めていない者も、年金額を同じ額にする」と言われたら、あなたはどう受けとめるだろうか。
生活困窮者の救済には、既に生活保護制度が存在する。正直者が馬鹿を見るような制度改革、国民の生活を根底から変えるような政策を、思いつきのように口にする軽薄さにはあきれるしかなかった(確固とした信念と根拠を持った政策なら、簡単に引き下げるはずがない)。
こんなことを考えるようになったのも、本書を読んだおかげかもしれない。自分の老後を支える大切な年金だから、一度はしっかり学ぶ努力はしておいた方がよい。
日本の年金制度は万全ではないが、健全で安心。子や孫の代まで大丈夫と、世界に誇れるシステムだ。
離れて暮らす息子や娘にも、ぜひ読んでもらいたいと思った一冊だった。
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