シニアライフ

口は「命の入口」(1) 覗いてびっくり、金さん銀さんの口の中

投稿日:2022年6月2日 更新日:

目次

「おんなきよまろ」はどうして生まれたか

「おんなきよまろ」こと精田紀代美さん「おんなきよまろ」こと精田紀代美さん(出典:歯科衛生士さんのお仕事日記

 精田紀代美(せいだ・きよみ)さんが、芸名「おんなきよまろ」を名乗り始めたのは、7年前のことである。多分、漫談家の綾小路きみまろさんを意識した芸名なのだろう。

 歯科衛生士の精田さんが30年勤務した富山県保健所を退職し、地域に密着した口腔(こうくう)ケアに取り組み始めたのは2001年。公民館や老人ホームなどで口腔衛生の大切さを訴えていたが、なかなか声がかからないし、人が集まってくれない。

 そこでど派手な衣装を身につけ、「おんなきよまろ」を名乗るようになったのが2015年から。「おんなきよまろ」が演じる「口腔ケア」爆笑ライブは徐々に人気を呼び、今では富山県内にとどまらず全国の高齢者施設を訪問。独自の口腔ケア指導と人材育成に尽力されている。

 2019年には著書『健口、長生きのひみつ』(ごま書房新社)も出版し、YouTubeで動画を配信するまでになった。

 小生は「日本講演新聞」(2018年2月19日号、同年2月26日号)で精田さんの講演記録を拝読。中でもある歯科医が100歳の「金さん銀さん」の口の中を見せてもらい、驚いたエピソードにいたく興味を引かれた。

 折しも政府が2022年6月に決定する「骨太の方針」で、「国民皆歯科健診」の導入を検討中というニュースを聞き、この金さん銀さんのエピソードを紹介したいと思った次第。

 なお、以下は上記講演記事の当該部分を小生が要約したもの。『健口長生きのひみつ』にも、ほぼ同内容の逸話が紹介されている。

健口、長生きのひみつ

 

覗いてびっくり、金さん銀さんの口の中

歯がなくても、丸干しイワシがうまい!

金さん(右)銀さん(左)(1998年12月、出典:産経新聞社)

 皆さんは「金さん銀さん」をご存知でしょ。あのお二人が100歳の誕生日にテレビの取材を受け、こう話していました。「何でもうまい、うまい」と。

 「何が美味しいんですか?」と聞かれると、「イワシをカランカランに干して、硬くなった丸干しをちょっと焼いて、骨ごと頭から尻尾まで毎朝食べる」とのこと。

 金さんは歯がありません。銀さんはまだ5本ありました。私は「歯がない金さんと5本しかない銀さんが、毎朝かたい丸干しイワシを食べるなんてあり得ない」と思いました。口腔ケアの専門家ならみんなそう思います。

 ある歯科医が金さん銀さんの了解を得て、口の中を見せてもらい驚いたことが二つありました。一つは、金さんも銀さんも歯ぐきがとても大きく「ゴンゴンテカテカ」だったこと。歯ぐきが歯の役目を果たしていたんです。これなら丸干しイワシを食べられると納得しました。

 昔の女性はたくさん子どもを産み、一人産むたびに2本ずつ歯が抜けていったと言われています。金さんは11人、銀さんは5人の子どもを産みました。だから(胎児の骨格形成にカルシウムを奪われ)どんどん歯がなくなっていったのです。

 お二人は明治25年生まれ。当時は医療保険制度もなく、入れ歯はとても高価なもの。お二人の家も貧しかったので、入れ歯を作ることはできなかったのです。

朝ご飯の前に口のクリーニング

 金さん銀さんのお口の中を見て、もう一つびっくりしたことは、舌がとてもきれいだったこと。とにかく普通の舌じゃない。肌色で、すごくきれいな舌だったのです。

 どうしてそんなにきれいな舌なのか。お二人は朝起きて洗面所に行くと、まずコップ1杯の水でうがいをして、それから目やにを取り、そして銅線の針金を丸く輪にして、それで舌を3回掃除をしていたんです。それから衣服を着替え、仏壇にお参りし、お経を唱え終わったらお供えしたご飯を下げて朝の食事です。

 お二人は朝起きてすぐ口腔ケアをして、きれいなお口でご飯を食べていたわけです。実はこれが正しい順番なのです。

 日本人は戦前まで、朝起きたらまずお口をきれいにしてからご飯を食べていました。これが戦前まで行われていた伝統的な生活習慣。「食後に歯を磨きましょう」というのは、戦後アメリカから入ってきた教育です。

 朝起きた時の口の中には、ばい菌がいっぱいいます。特に多いのが歯周病菌です。歯周病菌は歯を磨くとほとんどいなくなります。でも歯磨きでは取れないところに隠れている歯周病菌がいます。どこに隠れているのかというと、舌のヒダです。

 普段、歯周病菌は胃の中に棲んでいますが、夜寝ている間に胃から上がってきて、舌の奥のところに棲みつくんです。だから、朝起きたらまず舌の掃除をして歯周病菌を取り除かないといけないんです。

 金さん銀さんは、朝起きたら仏様にお参りする前に、これをやっていたんですね。起床したらすぐに「舌を掃除する」という生活習慣は、日本にずっと根付いていました。

※ 舌の表面に口内細菌が堆積して苔状になったものは、「舌苔(ぜったい)」と呼ばれている。実際の画像はグロテスクなので、ここに載せるのは差し控えた。興味がある方は、ネットで「舌苔」とググり、画像をご覧になるとどんなものかお分かりになるだろう。

※ 本記事の続きはこちら >口は「命の入口」(2) 歯磨き・舌掃除はいつから習慣化したのか? 

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  1. […] ※ 前回の記事はこちら >口は「命の入口」(1) 覗いてびっくり、金さん銀さんの口の中 […]

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