あとからくる君たちへ

あとからくる君たちへ(33) 学校で良い「型」を身につける

投稿日:2020年2月3日 更新日:

小学1年生

出典:ブルーカメラさんによる写真ACからの写真(私の孫ではありません)

※ 本シリーズ前回の記事はこちら >あとからくる君たちへ(32) 「数学の試験時間が150分間!」と驚くあなたへ  

 私には3人の孫がいます。一番年上の孫は、今年4月に小学校に入学。ぴかぴかの一年生として、これから9年間の義務教育のスタートを切るのです。

目次

「どうして掛け算九九を覚えるの?」

 あと数年もしたら、彼はこんなことを言い出すだろうと予想しています。
 「どうして掛け算九九を覚えないといけないの? 電卓があるのに‥‥」
 「どうして漢字が書けないといけないの? スマホもパソコンも漢字に直してくれるよ。」
 「どうして英語を勉強しないといけないの? 今はAIの自動翻訳機があるよ」(先日74ヶ国語に対応している自動翻訳機をテレビで見て、その性能の高さと値段の安さに驚いたばかりです。)

 あなたも、似たようなことを考えたことはありませんか?
 これらの「どうして」には二つのメッセージが含まれていると思っています。
 一つは、嫌な勉強から逃げるための言い訳やへ理屈。
 今ひとつは、本当に掛け算九九や英語を学校で勉強する理由が知りたいという疑問。

 私は、小中学校とは生きるための「型」を身につける場所だと考えています。そこでは半ば強制的に「型」をマスターすることが求められ、子どもの好みや希望が優先されることはまずありません。

 

「型」とは、先人の知恵の結晶

 では、「型」というのはどんなものでしょうか? 掛け算九九を例にして考えてみましょう。

 次の写真はバーゲンセールでよく見かける値引き札。「表示価格より30% OFF 」と書かれています。この値札の商品の値段を知りたい時、あなたは電卓を取り出したりしますか?

30%OFFの値引き札

 恐らくたいていの人は次のような暗算を頭の中でやっているはずです。
 「表示価格が5,000円。30% OFF ということは、70%が値引き後の価格だ。5,000円×0.7=3.500円か」。あなたの頭の中で「ごしちさんじゅうご」という呪文(?)が聞こえてきたはずです。

 掛け算九九は、節をつけて歌のように口ずさめば、誰でも自然に覚えられるように作られています。「さんいちが、さん。さんにが、ろく。‥‥」。みんなで一緒に毎日口ずさんでいくと、1週間程度で覚えてしまいます。これをマスターしているからこそ、誰もが瞬時に値引き後の値段を暗算できるのです。

 九九は、多くの先人たちによる試行錯誤をもとに作られています。一桁の掛け算が最も楽に効率的に計算できるように作られた、先人の知恵の結晶なのです。それを身につけさえすれば、人生を豊かに便利に過ごせる財産となるようなもの。それを私は「型」と呼んでいます。

 他にも「型」の例を挙げてみましょうか。正しい箸の持ち方、漢字の書き順、円の面積の計算法、挨拶の言葉や礼儀作法、電話のかけ方、クロールや平泳ぎなどの泳ぎ方、神社に行った時の参拝のやり方‥‥、いくらでもありますね。

 無意識に使いこなしていますが、全てあなたがこれまでに身につけてきた「型」なのです。型が身についていないと、いちいち事が起こる度にどうすればよいか、ゼロから考え判断しないといけません。あなたの生活は大混乱をきたすことでしょう。

 

学校における「強制」力とは?

 「型」が嫌がられる最大の理由は、自分が望まないことやみんなと同じ事を強制されることにあるようです。でも、学校というのは基本的に「強制」(良い意味で使っています)で成り立っていることが多いのです。

 授業中は私語や勝手な言動は禁じられていますね。勉強する内容は「学習指導要領」という規則で決められています。「英語よりフランス語を勉強したい」とあなたが言い張っても、フランス語の授業はなかなか実現しないでしょう。

 学校の「強制」力を考える例として、避難訓練を挙げてみましょう。
 学校では避難訓練が年に1、2度行われます。これは火事などの災害の発生に備え、法律や規則で訓練を行うことが義務づけられています。

避難訓練中の中学生出典:八代市立坂本中学校ウエブサイト

 たとえば火事が起こった時、次の二人の先生の指示を比べてみましょう。

 A先生
 「火事です! 私は、皆さんの自由や個性をできるだけ尊重します。だから、それぞれが安全だと思う方へ逃げていきましょう。」

 B先生
 「火事だ! これからグラウンドへ逃げるぞ。押すな、走るな、しゃべるな、戻るな! 着いたら出席番号順に整列・点呼して安全確認だ。俺についてこい。」

 分かりやすくするために、極端な例を挙げました。まさかAのような先生はいないと思いますが‥‥。
 A先生の指示は指導の放棄であり、子どもの命と安全を守るという責任を捨て去った態度です。子どもはどうしていいか分かりません。

 B先生の言葉は強制です。「お・は・し・も(押すな、走るな、しゃべるな、もどるな)」という避難の心構えがしっかり示されています。避難先と避難後の行動(整列・点呼)、逃げる経路を先導することを伝えています。子どもたちは、安心して先生に付いていけばよいのです。

 この指導方法は学校で、子どもの命と安全を守るために長年伝承されてきた「型」なのです。型を身につけておきさえすれば、大学出たての新任先生でも、まちがいなく子どもを守ってやれるのです。児童・生徒も強制された型にはまっていれば、整然と避難を終えることができます。

 もう分かったと思います。学校は型を身につける場所で、それには強制が伴うということを。あなたの好みや希望は、後回しになると始めから考えていた方がよいと思います。

 

「型」を習得しておけば、最低限の生きる力は身についてくる。

何度も繰り返されて身についた型は、洗練され美しい。

 小中学校の9年間で「型」を何度も繰り返し、無意識に使いこなせるようになれば、良いことがたくさんあります。

 何よりも便利です。苦労せずに勉強や生活がこなせていくので楽ができます。その結果、本当にやりたいことをやる時間とゆとりが生まれてきます。

 孫が冒頭の部分のような「どうして」を尋ねてきたら、こんな風に答えてみようかな、と思っています。
 「子どものうちに良い『型』をたくさん身につけておくと、いいことがたくさん待っているんだ。
  君の好きなこと、やりたいことは、学校とは別の場所でやっていけばいいのさ。」

◆本シリーズの次の記事はこちら >あとからくる君たちへ(34) 鎮魂の祈り、何もできないことを学ぶ   

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