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“PPK”と”NNK”、あなたはどちらを選びますか?
またまた元気なシニアの紹介である。本年3月に「世界最高齢のアプリ開発者」の若宮正子さん(82歳)を紹介したが、この方も負けてはいない。
※ 若宮正子さんの記事はこちら >あとからくる君たちへ(19) 何かを始めるのに、遅すぎるということはない
本年3月5日に開催されたシンポジウム「100歳時代大学~100年生き抜く知恵と心構え~」(主催:産経新聞社)で基調講演を行った、元滋賀県知事の國松善次(くにまつ・よしつぐ)氏(81歳)。その講演内容が面白かったので、備忘録も兼ね紹介させていただくとしよう。
演題は「学びで覚悟と備えを」、少し長いが記事をご覧いただきたい。
基調講演 学びで覚悟と備えを
健康・福祉総研理事長 國松善次氏
私は、これからの日本は異常高齢社会だと考えている。世界で日本が初めて経験する厳しい時代をどう生きるかが問われている。一人一人が覚悟と備えをしないといけない。登山でいうと、上りは頂上を見てがんばれますが、下りは引力と体重を支えるためにふんばって歩かないといけないうえ、足も疲れてくる。寝たきりになるかもしれない。認知症になるかもしれない。交通事故に遭うかもなど、下り坂は「まさか」の連続。それにどう備えるのか。
人生はピンピンコロリの「PPK」と、認知症・寝たきり・孤独死の「NNK」の2つの道がある。どちらに行くかを決めるのは自分。人生は1人1回限りのドラマで、主役、脚本家、監督をすべて自分が兼ねる。私の人生は70歳で新しいドラマが始まった。車の免許を取り、初心者マークと高齢者マークを貼った。マラソンも始め、フルマラソンを完走した。このためにエレベーターにもエスカレーターにも絶対に乗らない。電車に乗っても座らない。立って足を踏ん張ればスクワットができる。本人の継続する意思が大切で、三日坊主では話にならない。
健康長寿には5つのカギがある。まずは筋肉を若く保つこと。筋肉は使わないと減るのでいじめることが大切だ。2番目は血管を若くすることで、バランスの良い食事と深い呼吸が大事だ。3番目は、筋肉や骨、血液を作る加工工場である腸の健康。次に脳を使うこと。刺激し感動させる。最後が心。「気」と言ってもいい。気がすべてを決める。気が元で「元気」、気が病んだら「病気」、気には力があるので「気力」と書く。ワクワクする目標を持つことが大切だ。
65歳になったら、いかに老後を生きるかという基礎学習が必要で、これを義務教育にすべきだと考えている。これが「100歳大学」だ。人生の上りには、義務教育という仕組みがあり、先生と教科書とロマンもあった。ところが下りには階段も手すりもなく、教科書も先生もいない。100歳大学を全国の自治体に広げ、住民と行政が健康な人づくりと街づくりを一緒に取り組めば、人も街も健康になる。継続には3つの秘訣(ひけつ)がある。1つは目標を持つこと。2つ目が仲間を作ることで、1人では必ず挫折する。最後が褒められること。自分で自分を褒めてもいいし、仲間がいれば褒め合う。頑張った人には、行政が税金をまける仕組みがあったらもっといいと思う。現職の知事のときに思いつけばよかったが。
100歳人生は学ぶこと、働くこと、そして楽しむことが大切。楽しみがないと続かない。人の役に立って少しでも金になることがあればなお良い。それを続ける生活スタイルを身につけてほしい。
(産経新聞、2019年3月27日の記事を転載)
この國松氏、実にお話がうまいなぁと感心した。恐らく会場には笑いの渦が巻き起こり、大半の聴衆は「なるほど」とうなづかれたことだろう。
なかでも「人生はピンピンコロリの『PPK』と、認知症・寝たきり・孤独死の『NNK』の2つの道がある」というフレーズ、小生はえらく気に入ってしまった。簡にして要、しかも脚韻まで踏んでいるではないか。
その後の「人生は1人1回限りのドラマ」、「主役、脚本家、監督をすべて自分が兼ねる」というフレーズも聴く者の自尊心をくすぐり、何となく元気が湧いてくる。
その通り、自分の人生は自分が演出し、自分が演じ切るのだ。
伊崎の竿飛びで知事コールに応える國松知事(67歳)
この後見事なダイブを見せてくれたとか。
(出典:ちば☆フォトギャラリー)
國松善次元滋賀県知事とは
國松氏のことをもっと知りたくなり、少し調べてみることにした。上記の掲載記事には、次のようなプロフィールが添えられていた。
昭和13年生まれ。34年滋賀県立短大農業部卒、大阪府庁入庁。41年中央大学法学部卒、51年滋賀県庁入庁。平成10年に滋賀県知事に初当選。18年まで2期を務めた。「100歳大学」を運営する健康・福祉総研理事長。
県庁職員から知事に立候補とは、さぞかし勇気ある決断だったと思う。任期中の主な施策には、琵琶湖の淡水赤潮被害を予防するための「石けん条例」の制定(家庭用合成洗剤の使用禁止)、琵琶湖での外来魚リリース禁止の条例(2002年)など、環境問題や福祉制度に積極的に取り組まれた方のようだ。
余談になるが、國松氏の著書「ただいま知事一年生」は、残念ながら北九州市の図書館にはどこにもなかった。福岡県立図書館の横断検索システムで検索してみると、県内の4つの公立図書館に所蔵されているとのこと。今日中央図書館で、市外図書館蔵書のリクエストをしようと思っている。
石けん条例も外来魚リリース禁止条例も、かなりの反対を押し切っての力業だったようだ。信念があるからこその決断だったろう、と勝手に推察している。
サイクリングを楽しむ國松善次氏(出典:滋賀県中小企業家同友会のサイト)
この方のユニークな点は、自分が良いと思ったら、迷わず実行に移すところ。健康に対する取り組み方も半端ではない。
- 知事時代からエレベーターやエスカレーターには乗らず、階段で上り下りすることを習慣としていた。
- 70歳で運転免許を取得し、初心者マークと高齢者マークを同時に車体に張り、運転。
- 同じく70歳でマラソンを始め、これまでにフルマラソンを3回完走(東京、ホノルル、大阪)。若い頃はスポーツに全く縁が無かったそうだ。
- ロードバイクを乗りこなす「チャリダー」でもあり、年1回実施される琵琶湖一周250kmサイクリングにも毎年参加している。
「100歳大学」、人生の下山のための義務教育
出典:「一般社団法人 Le Lien(ル リアン)」サイト
國松氏が知事を引退後に提唱し、振興を図っているのが「100歳大学」。滋賀県栗東市と湖南市では、前期高齢者となる65歳を対象にした「100歳大学」が開講されている。
趣味作りといった既存の講座とは一線を画し、福祉や認知症対策など、老いを生き抜く基礎を体系的に学ぶ「第2(老い)の義務教育」として注目されている。
基礎科目として、健康づくり、生きがいづくり、幸せづくり、福祉の現状、地域の課題等を学び、選択科目としては男の料理教室、女の体操教室、認知症教室など。
座学だけでなく、体験学習、ワークショップも重視。週1回年間40コマの受講が求められている。滋賀県民が何ともうらやましい。
拙ブログ「シニアを生きる」も、老いを生き抜くための試行錯誤の記録として始めたこともあり、共感するところ大である。
「黄金の10年」をどう生きるか
65歳の誕生日を迎えた頃に、ある方から「あなたの前には『黄金の10年』が待っていますよ」と言われたことがある。なるほど、子どもたちも自立し、小生とカミさんのそれぞれの両親も看取った後だけに、これからは自分が本当にやりたいことができるんだなぁ、と実感したことを覚えている。
この黄金の10年を素晴らしいものにするため、健康寿命を少しでも長く維持しようとカミさんと話し合っている。どちらか一人が要介護者になれば、そこで黄金のシニアライフが終わりを迎えるからだ。
國松氏が講演で説いた健康長寿のポイント、改めて箇条書きすると、
- 筋肉を若く保つ
筋肉は使わないと減るので、いじめる。 - 血管を若くする
バランスの良い食事と深い呼吸が大事 - 腸の健康を維持する
腸は、筋肉や骨、血液を作る加工工場 - 脳を使う
脳を刺激し、感動させる。 - 心(=気)気が全てを決める。
ワクワクする目標を持つ。
心しておかねばなるまい。
※ 参考資料
- 「100歳大学構想について」(第23回健康生きがいづくりアドバイザー全国大会・特別講演レジュメ)
- 「100歳大学パンフレット」
- 「100歳大学」を提唱する一般社団法人健康・福祉総研のサイト