あとからくる君たちへ

あとからくる君たちへ(29) 「情けは人のためならず」

投稿日:2019年9月16日 更新日:

抽象的なイラスト

 前回はドーパミンとオキシトシン、この2つの脳内物質の話でした。ドーパミンは、苦しさをのりこえて目標を達成した時に、オキシトシンは他者とふれ合い、共感を感じた時に分泌される幸せ物質。
 この2つの脳内物質が出るような生活をすれば、幸せになっていくという内容でした。
 今回は、その続きです。

※ 本シリーズ前回の記事はこちら >あとからくる君たちへ(28) 人を幸せにする二つの脳内物質

なぜ人は親切をしようとするのか? 

 2011年の東日本大震災の際、91カ国地域が175億円もの金額を日本に寄付してくれました。これとは別に日本赤十字社には、386億円もの寄付が寄せられたと言われます。

 人は困っている他人を見ると、たとえそれが知らない人であっても、助けてあげたい思いが自然に起こり、親切や手助けを行うことが知られています。人のこのような「利他」の性質は動物界の中ではきわめて珍しく、これまで大きな謎とされてきました。

 動物はもともと「利己」的な存在です。もともと利己的な動物であった人は、どのようにして家族以外の他人にも親切を行うようになったのでしょう。

協力し合って作業する作業員 前回紹介した『「親切」は驚くほど体にいい!』では、この謎は次のように説明されています。

 私たちの祖先は多くの捕食者に脅かされてきました。自分たちより速くて強い動物たちに対応するためには、力を合わせて結束する必要がありました。
 個人個人で狩りをしてそれぞれが食欲を満たすよりも、部族やコミュニティを形成して食料を手に入れたり、身を守ったりした方が生き延びやすいため、協調に役立つ遺伝子が自然淘汰で残ってきたのです。

(出典:『「親切」は驚くほど体にいい!』(デイビッド・ハミルトン著、有田秀穂監訳、飛鳥新社))

 人は集団で生き延びるために、長い進化の過程で協力し合う遺伝子が強化され、自然淘汰されてきたようです。

 集団生活では、協調し団結を強めることが大切になります。愛、情け、親切、感謝‥‥、これらの態度や行動が、人と人との関係を良好にし、集団への協調性を強めます。

 

「情けは人のためならず」が科学的に確認された 

 ところで、「情けは人のためならず」ということわざを聞いたことはありますか。「人に情けをかけると、その情けが巡り巡って、いつかは自分に返ってくる」という意味です。つまり、人に親切にするのはその人のためだけでなく、自分のためでもあるということ。

 このことわざが事実であることを、2013年に大阪大学大学院の人間科学研究科のグループが、幼児集団の観察を通して世界で初めて確認しています。

※ 『「情けは人の為ならず」を科学的に実証 ー親切が広く交換される仕組みを幼児の日常生活で初めて確認』/大阪大学公式サイト

 次の図はその観察結果をイメージしたものです。「親切児(B)」が「受け手(C)」に親切を行った場面を観察した「親切行動観察児(A)」が、後で「親切児(B)」に対して親切にふるまっているというものです。

親切児と親切行動観察児出典:大阪大学公式サイト

 「親切を行う幼児は後にまわりの児から親切にしてもらいやすく、自分が親切にした分をまわりの児から返してもらっていることが明らかにな」ったそうです。まさに「情けは人のためならず」ということわざが表す内容と同じことです。

 他人に親切にふるまえば、集団内の他メンバーが自分に対し、親切にしてくれやすくなる。協力し助け合って種を存続させてきた人は、共感や親切を実行する個体が優遇されやすくなる仕組みをつくり上げてきたのでしょう。

 

幸せに生きることは実に簡単!

尾畠春夫さんスーパーボランティア尾畠春夫さん(出典:情熱大陸

 最高に幸せな生き方とは、脳科学的に言うと、ドーパミンとオキシトシンの両方が分泌される生き方でした。つまり、自分の目標を達成することでドーパミンが、世のため人のためになる行動を行い、感謝されることでオキシトシンが分泌されるように生きればよいのです。難しい言葉で言えば、「自己実現を通しての社会貢献」をやること。

 たとえば、「スーパーボランティア」と呼ばれる尾畠春夫さん。ボランティア活動を通じて、災害で困っている人を助け、世のなかのお役にたつ。ご本人がおっしゃるように「幸せな毎日」だと思います。

 尾畠さんのような特別な存在でなくても、私たちは自分の仕事に目標を設定し、それに打ち込むことで、周囲の人の役に立ち、喜んでもらえることが可能です。

 おいしい料理を食べてもらって、お客様に喜んでもらう。医療技術を向上させて、患者さんの病気や怪我を治す。指導力を向上させて、子どもたちの学力や体力をレベルアップさせる。良い部品を作って、製品の性能をアップさせる。

 自分の目標を達成し、それが誰かの役に立っていると自覚できる時、人は大きな幸せを味わうことができるのでしょう。

 

親切をする時には「ありがとう」を期待しないこと

花を差し出す幼児

Tim KraaijvangerによるPixabayからの画像

 最後に二つだけ、注意してほしいことがあります。一つは「親切をするときに、見返りを求めない」こと。見返りや感謝の言葉を期待すると、裏切られたときにストレスとなります。「ありがとう」と言われなくても、他人の気持ちに共感しその人のために良いことをする。これだけでわれわれの心は幸せになっていることを覚えておきましょう。

 もう一つは、「親切のただ乗り」をしようとする人が必ずいるということ。「親切のただ乗り」をする人とは、親切を受けても他の人に「恩送り」をしない人。利己主義者なので、すぐ分かります。利己主義的な人にまで、親切にするかどうかはあなたが決めればよいことです。

 目標めざして努力を重ね、世のため人のために生きる。幸せな人生とは、意外とシンプルなのかもしれません。

◆本シリーズの次の記事はこちら >あとからくる君たちへ(30)  

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