前回は神武天皇が初代天皇として即位するにあたり、どのような国をつくろうとしたか、ということにふれました。
『日本書紀』に記された神武天皇の「即位建国の詔(みことのり)」には、次のような日本国建国の精神が示されている、と私は(勝手に)考えています。
- この国を授けてくださった神(=アマテラス)のお告げに応える国をつくろう。
- この国を一つにまとめ、一つ屋根の下の大家族のようにみんなで暮らそうではないか。
今回はこの建国の精神について、もう少し踏み込んでみましょうか。
※ 本シリーズの前回記事はこちら >あとからくる君たちへ(63) 建国記念日、日本はどんな国をめざしてつくられたのか_1
目次
「神(=アマテラス)のお告げに応える」とは
日本神話では、神武天皇の曾祖父(そうそふ。ひいおじいさんのこと)が神の国から地上に降臨したニニギノミコト。ニニギノミコトはアマテラスの孫となります。つまり、神武天皇はアマテラスから数えて6代目の子孫なのです。
画像出典:神社チャンネル
アマテラスのお告げについては、以前このブログで記事にしたことがあるので、その部分を転載することにします(その記事はこちら >)。
<転載開始>
次の絵はアマテラス(天照大御神)が、これから地上に降り立とうとするニニギノミコトに「三種の神器(鏡、勾玉、剣で、天皇の象徴とされる3つの宝物)」と共に稲穂を授けている場面です。
ニニギノミコトに稲穂を授ける天照大御神(「斎庭の稲穂」今野可啓画・部分)
『お父さん、日本のことを教えて!』では、この「天孫降臨」のエピソードは、次のように説明されています。
天照大御神(あまてらすおおみかみ)が、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に三種の神器と稲穂を渡して、地上を統治するよう告げました。そのときに、3つの大切なこと(「三大神勅(さんだいしんちょく)」といいます)を命じました。かんたんにいうと、次のような内容です。
1 この国の君主である自覚を持ちなさい。
2 三種の神器を大切にしなさい。
3 稲穂を育てて地上を治めなさい。民を飢えさせてはいけない。(出典:『お父さん、日本のことを教えて!』赤塚高仁、自由国民社)
さて、ニニギノミコトはこの神勅(=神の言葉)をどのように受け止めたと思いますか。私は次のように勝手に解釈しています。
1 私は国を立派に治めるために、自分を磨き、徳を養うように努めます。
2 私は神の言葉を忘れないために、三種の神器を大切にし、子々孫々まで伝えていきます。
3 私はこの稲を地上に広め、国民の命を守っていきます。
「徳によって治め、神の言葉を末永くつなぎ、国民の命を守る」こと、それが地上を治めるニニギノミコトの使命であり、その子孫(ニニギノミコトのひ孫が初代神武天皇)である歴代天皇の一番の願いになったと。
<転載終了>
神武天皇は国づくりを行うにあたり、まず「アマテラスのお告げを(子孫として)実践し、守っていきます」と宣言したわけです。
世界を一つの家にする
もう一つの建国の精神「この国を一つにまとめ、一つ屋根の下の大家族のようにみんなで暮らそう」と訳した部分の原文は、「掩八紘而為宇」。書き下し文に直すと次のようになります。
八紘(あめのした)を掩(おお)ひて宇(いえ)にせむ
「八紘」とは「全世界、天下」のこと。辞書を引くと「四方と四隅(よすみ)」とあります。四方八方と同じ意味ですね。「宇」を漢和辞典で引くと「屋根、家、住まい」の意。
ここから「天下をまとめて、(ひとつの)家にしよう」と解釈されています。
全世界の人々が、一つ屋根の下の大家族のように暮らす国。争いも戦乱もない穏やかな平和国家、大いなる和の国「大和(やまと)」。これが神武天皇がめざした国のありようでした。
なお、この言葉「八紘為宇(はっこういう)」は、後に「八紘一宇(はっこういちう)」と呼ばれるようにもなりました。
平和の塔(宮崎市)、「八紘一宇」の文字が刻まれている(画像出典:Photo AC)
民は「おおみたから」
東日本大震災の被災地・宮城県で被災者を慰問なさる天皇陛下(当時) ©JMPA
「即位建国の詔」でもう一つ、ぜひ知っておいてほしい言葉があります。「おおみたから」という言葉です。民を表す漢字に「おおみたから(正確には「おほみたから」)」という読みがあてられています。『日本書紀』でも『古事記』でも、民は「おおみたから」と呼ばれているのです。
これについては、長谷川三千子氏(埼玉大学名誉教授)が次のように述べていました。
(前略)‥‥『日本書紀』でも『古事記』でも、人民は「おおみたから」と呼ばれています。
これは、代々の天皇は祖先である神々から最も大切な大御宝(おおみたから)として人民を預かっている。だから何をおいても〈民のための政治〉をしなければならない、という思想を担った言葉なのです。
(出典:『今年は「明治150年」 建国の理念をつかみ再認識する大切さ』埼玉大学名誉教授・長谷川三千子、産経新聞2017年2月28日)
「おおみたから」を辞書で引くと「天皇治下の国民。人民。一説に農民のこと」とあります。「子宝(こだから)」という言葉から分かるように、民は大きな「御宝」のように大切なものという意味です。
一方国民は、このように民を大切に思われる天皇の心を「大御心(おおみこころ)」と呼び、敬愛してきました。「おおみたから」と「おおみこころ」。この天皇と国民のきずながあったからこそ、日本国は2600年以上も続くことができたのだと思います。まさに世界史の奇蹟です。
「大御宝(おおみたから)」である国民が、「一つ屋根」のもとで仲良く暮らすことを理想として建国されたのが日本国なのです。
※ 参考資料
本稿を書くにあたり、次のような書籍や資料を参考にさせていただきました。感謝します。
- 『日本書紀(上)全現代語訳 (講談社学術文庫)』(宇治谷孟、講談社)
- 『決定版 日本書紀入門 2000年以上続いてきた国家の秘密に迫る 』(竹田恒泰、久野潤、ビジネス社)
- 『お父さん、日本のことを教えて!』(赤塚高仁、自由国民社)
- 『日本人として知っておきたい 皇室の祈り』(伊勢雅臣、育鵬社)
- 『世界が称賛する 日本人が知らない日本』(伊勢雅臣、育鵬社)
- 『日本は天皇の祈りに守られている』(松浦光修、致知出版社)
- 『今年は「明治150年」 建国の理念をつかみ再認識する大切さ』(埼玉大学名誉教授・長谷川三千子、産経新聞2017年2月28日)
- 「日本肇国の精神って言えますか?ー神武天皇の「即位建国の詔」を読む」/まほろば社会科研究室
https://shakai-chireki-koumin.net/mahoroba-jinmu-sokui-kento-mikotonori/
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