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大手進学塾カリスマ講師の不思議な体験
先日、㈱アビリティートレーニング代表取締役、木下晴弘(きのした・はるひろ)さんの講演記録(「最高のチームの作り方~受験は個人戦ではなく団体戦」、『日本講演新聞』2020年9月28日号)を読む機会がありました。
木下さんはかつて大手進学塾の講師でした。灘高校の合格者数全国1位を誇り、超難関高校に合格者を「バンバン送り出している」ような塾です。
木下さんは、その塾で生徒からの支持率95%を誇る超人気講師として活躍。また、超難関校を目指す受験生を教える講師陣を指導するリーダーも務めていました。
その木下さんが講師時代に実感したのが、「受験は個人戦ではなく、団体戦だ」という事実。個人で戦うのが当たり前の受験を、なぜ「団体戦」ととらえたのか。
木下さんの不思議な体験に耳を傾けてみませんか。
三つの教室の合格者数は大きく違った!
これから私たちが体験した非常に不思議な出来事をお伝えします。
話を分かりやすくするために、仮に神戸にある教室を「A教室」、大阪にある教室を「B教室」、京都にある教室を「C教室」としてお話しします。
この三つの教室の最上位クラスに、灘高校を目指す受験生が10名ずついたとします。つまり、三教室合わせて30名の受験生です。この30人の学力はほぼ同じ。また同じ講師が三教室を回って授業を行い、テキストも同じものを使って教えています。
ある年、この30名の中から15名の灘高校合格者が出ました。この15名の合格者が、それぞれ三つのクラスに5名ずつ分布していたら何も不思議ではありません。なぜなら同じような学力、同じテキスト、同じ講師から学んでいるからです。
ところが、結果はそうはならなかったのです。各教室の合格者数は次の表のとおりでした。
教室名 | 合格者数 |
A教室 | 8名 |
B教室 | 5名 |
C教室 | 2名 |
合格者15名のうち8名がA教室の生徒、B教室は平均的な5名、そして何とC教室は惨敗の2名でした。
私たちは非常に驚きました。合格者8名を出した神戸校A教室にはどんな特徴があったのか、大阪校B教室や京都校C教室との違いは何なのか。
受験後に一人一人にヒアリングを行い、「どんな勉強をやったのか」「どんな教室の雰囲気だったのか」をていねいに聞いていったのです。
その結果、驚くべき事実が分かってきました。
グループと「チーム」の違い
合格者2名の京都C教室にはいじめがありました。いじめのある教室では、生徒は勉強に集中できません。自分がいついじめられるかが気になり、落ち着かないのです。
いじめや仲間外れのある集団は、ボーダーラインの生徒たちがことごとく不合格になる例が多くあります。
彼らは個人的にはそれぞれ優秀ですが、10名の心はバラバラ。塾のない日はゲームセンターに行っていました。
合格者5名の大阪B教室の生徒は、仲良しグループでした。仲はいいけれど、お互いの勉強には干渉せず、塾の外ではあまり交流がありません。塾のない日は自宅でそれぞれ勉強していました。
合格者8名の神戸A教室は、全員が「チーム」でした。グループとチームは違います。何が違うのか?
たとえば、数学の苦手な子がいたら、数学の得意な子が教えて友達の成績を上げようとします。
漫画を持ってきた子がいたら、誰かが「お前、何しとるんや。俺らはあの学校に全員で受かろうって約束したんと違うんか。一緒に合格しようぜ。合格したら、その漫画を回し読みしようぜ」と言うんです。すると周りの子も「そうや。漫画しまってこっち来い」と言うんです。
塾のない日は誰かの家に集まってみんなで勉強します。弱音を吐く子がいたら、誰かが励まします。
A教室の生徒の合格体験記には、こんな言葉がありました。
「僕の合格は、このクラスの友だちがいなければ決して成し遂げられなかったと思う」
このようにグループがチームに変わり、共通の目標に向けてお互いにサポートし合い、全員で目標を達成しようという文化ができた時、ものすごい力が起こってくるんです。
このことが分かった私たち講師陣は、何をなすべきかがはっきりと分かりました。それは、いかにA教室のような「チーム」を作り上げるか、だったのです。
※「最高の組織を創るために知っておきたい5つの法則」
木下さんの講演記事は『日本講演新聞』会員しか閲覧できません。
上記の講演記事の朗読動画(4分9秒)がYouTubeにアップされています。興味のある方は、どうぞ。
木下さんの講演記事を読み終えた私は、ふと「ガンのV字編隊」の話を思い出しました。
おっと、それはまた次の機会に話すことにしましょう。
◆本シリーズの次の記事はこちら >あとからくる君たちへ(47) ガンはなぜV字編隊で飛ぶのか?
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