アイルランド戦の後半、逆転トライを決めた日本の福岡堅樹(C)朝日新聞社
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世界ランキング1位、9戦全敗のアイルランドと戦う
アイルランドに勝利し歓喜の日本代表フィフティーン=28日、静岡スタジアム(山田俊介撮影)
(出典:産経新聞社)
この場面、覚えているでしょうか? ラグビーワールドカップの日本代表第2戦(2019年9月28日)、対アイルランドに19対12で勝利した瞬間です。選手たちの喜びが爆発している様子がよく分かります。
実況中のアナウンサーは「もうこれは奇跡とは言わせない!」と絶叫していました。自宅で応援していた私も、この時は両手を大きく叩いて「やったー!」と吠えて(?)いたのです。2019年で最も感動した瞬間の一つです。
戦前の予想では、圧倒的にアイルランドが有利。それもそのはず、ワールドカップ開幕時のアイルランドの世界ランキングは1位、日本は10位。対戦成績は、アイルランドの9勝0敗。日本は過去1度も勝ったことはないのです。
最後に対戦したのは、2年前の2017年6月。テストマッチ2試合を行い、13対35、22対50といずれもダブルスコア以上の点差で敗れています。
ラグビー・アイルランド代表【写真出典:Getty images】
大多数の人々は「日本チームは善戦するだろう」とは予想していましたが、内心では「勝利は難しいかな?」と考えていたと思います。私もその一人でした。
しかし、選手たちは違っていました。田村優選手は試合後のインタビューで、次のように語っています。
「僕たちは1週間、信じて、アイルランドに勝つって信じて、準備してました」と。他の選手たちも勝てると信じていた、と述べていました。
ラグビーの試合には奇跡はない、とよく言われます。実力の差がそのまま勝敗に表れるのが、ラグビーというスポーツ。
相手に勝つには、相手以上の実力を身につけるしかない。それだけの実力は短期間では身につきません。聞くところによれば、日本チームは「地獄の合宿」と呼ばれた240日間(8ヶ月!)に及ぶ苦しいキャンプを乗り越えてきたとか。
ジェイミー・ヘッドコーチのメッセージ
ジェイミー・ジョセフH.C.(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
アイルランド戦の直前ミーティングで、ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(49)は、自らの思いを託したという一編の詩(本人は「俳句」と言っていましたが)をチームに披露しています。
No one thinks we can win
誰も、(我々が)勝てると思っていないNo one thinks we can even come close
誰も、接戦になるとさえ思っていないNo one knows how hard you’ve worked
(しかし)誰も(君たちが)どれだけハードワークをしてきたかNo one knows how many sacrifices you’ve made
どれだけ多くの犠牲を払ってきたか知らないYou know you’re ready
準備はできているんだ(やり残したことはない)(お互いを信頼して、みんなを信じて。行くぞ!)
(出典:英文は『NHKスペシャル「ラグビー日本代表 密着500日~快進撃の舞台裏~」』( 2019年10月20日放映)の字幕から、日本語訳は引用者による。なお、赤字部分の英文字幕は表示されなかったため、通訳の日本語をそのまま記載した。)
この詩には、自分たちがやってきたことへの絶対の自信があふれています。強大な敵を前にして、「準備はできている(やり残したことはない)」と言い切れた時、我々は湧き起こる自信を実感することができるのでしょう。
長い人生では、何度か大きな試練に立ち向かわねばならない時が訪れます。その時どうすればよいのか。「Brave Blossoms (桜の勇士たち)」が教えてくれているようです。
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