※ 本シリーズ前回の記事はこちら >あとからくる君たちへ(29) 「情けは人のためならず」
目次
「四方拝(しほうはい)」、天皇陛下が年の初めに祈ること
今日は令和元年12月5日、後1ヶ月足らずで、新元号「令和」となって初めての新年を迎えます。今回は、皆さんのほとんどが知らない元旦行事を紹介することにしましょう。
新年の初詣に出かけ、私たちは神社でいろんなことを祈ります。「今年もよい年でありますように」、「受験に合格しますように」、「家族全員が幸せになりますように」、‥‥。神様にお願いしたいことはたくさんありますね。
ところで、皆さんが初詣に出かける元旦に、天皇陛下は何をなさっているか知っていますか。実は、陛下は、午前5時30分から皇居内の特別な場所で祈りを捧げていらっしゃるのです(この行事を「四方拝(しほうはい)」と言います)。
陛下の祈りの言葉は毎年同じです。定めにより祈りの言葉は決まっているのです。孫引きで申し訳ないのですが、次のような言葉だそうです。
賊冦之中過度我身(賊冦の中、我が身を過し度せよ)
ぞくこうしちゅうかどがしん
毒魔之中過度我身(毒魔の中、我が身を過し度せよ)
どくましちゅうかどがしん
毒氣之中過度我身(毒氣の中、我が身を過し度せよ)
どくけしちゅうかどがしん
毀厄之中過度我身(毀厄の中、我が身を過し度せよ)
きやくしちゅうかどがしん
五急六害之中過度我身(五急六害の中、我が身を過し度せよ)
ごきゅうろくがいしちゅうかどがしん
五兵六舌之中過度我身(五兵六舌の中、我が身を過し度せよ)
ごへいろくぜつしちゅうかどがしん
厭魅之中過度我身(厭魅の中、我が身を過し度せよ)
えんみしちゅうかどがしん
萬病除癒、所欲随心、急急如律令。
まんびょうじょゆ しょよくずいしん きゅうきゅうにょりつりょう(出典:『江家次第』(ごうけしだい、1111年(天永2)?、「SAS総合研究所」サイトより転載)
詳しい意味は分からなくてもいいのです。注目してほしいのは、7回繰り返される太字部分。「我が身を過し度せよ」とは、「我が身を通してからにしてください」という意味と言われています。
つまり、この長く難しい呪文の大意は「国家国民のありとあらゆる厄災(「やくさい」、ふりかかってくる不幸な出来事、わざわい)は、(国民が受ける前に)全て私を通り過ぎるようにしてください」ということなのです。
日本国民1億2千万人に降りかかる不幸を、まず我が身で引き受けようとの祈りを神に捧げていらっしゃる。この間、皇后陛下(当時)も宮邸の窓や戸を開け放ち、陛下の祈りが終わるのを身を慎んでお待ちになってきたのだとか。
四方拝の様子を想像してみる
この四方拝という行事は、9世紀初めの嵯峨天皇の時代に始まったとされます。応仁の乱による一時中断を経た後、1475年に再興され、現在まで脈々と続けられています。
実際に天皇陛下はどのように祈って下さっているのでしょう。山本雅人氏の『天皇陛下の全仕事』(講談社現代新書)によれば、 陛下は元旦の午前4時頃から準備を始め、午前5時半には宮中の神嘉殿(しんかでん)の前庭にお出ましになります。元旦の東京の日の出は午前6時50分頃、周りは暗く、厳しい寒さの中での祈りです。
屋根だけで吹き抜けの建物には、清潔な青畳が敷かれています。しんしんとした寒さが忍び寄ってくる中、正座の姿勢から立ち上がり、腰を折って深々と頭を下げながら正座にもどり、額が畳につくほどの深さで拝礼。この動作を2度繰り返した後、さらにもう2度同じ動作を繰り返す。何度も正座と拝礼を繰り返しながら、10柱もの神々に国家安泰と国民の幸せを祈ってくださるのです。
令和最初の初詣で、祈ること
恥ずかしい話ですが、私はつい最近まで陛下の祈りの言葉を知りませんでした。初めて知った時は、驚きと共に有り難さで胸が熱くなったことを覚えています。
「国民の不幸を全て我が身が引き受けよう」という崇高な祈り、この祈りが千年以上も続いてきたことを知るにつけ、日本国民であることの幸せを実感するようになりました。
来年の元旦には、新しく即位なさった今上(きんじょう)陛下が、初めて四方拝の儀式を執り行われます。何もして差し上げることのできない私は、せめて同じ時刻に初詣に出かけ、世界の平安と幸せ、次に上皇陛下と今上陛下のご健康を祈念し、最後に個人的なお願い事を申し上げようと考えています。
※ YouTubeにアップされていた「四方拝」を取り上げた動画(6分1秒)
◆本シリーズの次の記事はこちら >あとからくる君たちへ(31) ”You know you’re ready.”(準備はできている)
◆本シリーズの他の記事はこちら >シリーズ「あとからくる君たちへ」関連記事へのリンク
[…] ※ 四方拝についての過去記事はこちら >あとからくる君たちへ(30) 元旦に行われる四方拝(しほうはい)、天皇陛下の祈り […]