◆前回の記事はこちら >奈良&京都見聞録(7) 唐招提寺、「落ち着いたたたずまいと凜とした風格」
※ 本稿は2018年12月19日の記録を、2019年1月29日にアップしたものです。
目次
平安神宮から琵琶湖疎水へ
奈良・京都旅行の5日目。カミさんが夕方に某所にて用があると言うので、その某所近くの南禅寺・銀閣寺エリアを歩いてみることにした。
このエリアで未訪問の場所と言えば、まず平安神宮。明治28年に平安遷都1100年を記念して創建された、京都では歴史の浅い神社である。なるほど、古都奈良で春日大社、東大寺、興福寺、薬師寺、唐招提寺‥‥、と名だたる世界遺産を見てきた後では、さすがに風格や歴史の重みで見劣りするのは否めない。
それでも、入口の大鳥居や広大な敷地にそびえる巨大な丹塗りの社殿はなかなかのもの。特に、蒼龍楼(そうりゅうろう)、白虎楼(びゃっころう)は珍しい建築様式で興味深かった。
悔やまれるのは、「平安神宮神苑」を見逃したこと。旅行後に知ったのだが、「平安神宮神苑」は明治を代表する日本庭園で、平安神宮の見どころの一つとして有名な名勝のようだ。総面積は1万坪、新進気鋭の造園家・小川治兵衛(おがわ・じへい)らが20年以上かけて造った庭園とのこと。
平安神宮について何の予備知識もなしで、ぶらりと立ち寄っただけに、後で後悔する羽目となった。
平安神宮から足を伸ばし、「無鄰菴(むりんあん)」に向かう。途中、琵琶湖の湖水を京都市へ引き入れる「琵琶湖疎水」でしばし休憩。整然と区割りされた水路にゆったりと流れる水。さぞかし大工事であったろうと、当時の苦労がしのばれる。
無鄰菴(むりんあん)、庭を眺めて一服
「無鄰菴 (むりんあん)」、明治の元勲山縣有朋(やまがた・ありとも)の別邸。ここは大して期待していなかっただけに、いい意味で期待を裏切られた。東山を借景とした美しい庭園は、実に見応えがあった。
入口のくぐり戸を抜けると、飛び石づたいに狭い風流な道が続いている。少し進むと、いきなり広々とした日本庭園(敷地1千坪)が、眼前に一気に開ける。ここで思わず「おぅ!」という声が口をついて出てしまう。この演出、心憎いほどである。
この開放的でのびのびとした日本庭園、この庭の革新的な点は「庭園には池」という伝統を一新し、琵琶湖疎水を利用した水の「流れ」を取り入れたこと。今ひとつは芝生を植え、明るい西洋的な感覚を取り入れたことらしい。
旅行から帰って調べると、造園を任されたのがこれまた小川治兵衛。先ほど見逃した平安神宮神苑や高台寺の庭も作庭していたと知った次第。
無鄰菴でもう一つ気に入ったのは、母屋に設けられた休憩所。広々とした和室にはホットカーペットが敷かれ、腰を下ろすと下半身はほっこりと温かい。膝かけ用のブランケットも準備されている。これなら、冬でも寒さに震えることなく庭を楽しむことができるというもの。
中からの眺めは、こんなふう。開放的なつくりなので、のんびりゆったり庭を眺めることができる。小生など、あまりの居心地のよさに30分以上も居座っていた。
無鄰菴の庭園で見かけた「止め石(とめいし)石」、「関守石(せきもりいし)」とも言うらしい。
丸い石に黒いシュロ縄を十文字にかけて置き、行き止まりを示すサインだとか。「立ち入り禁止」などという無粋な立て札ではなく、主(あるじ)の「ご遠慮いただけますか」という気持をさりげなく表す奥ゆかしい標識。さすが京都である。
母屋の隣に洋館があり、当時のままの洋間が2階に残されている。洋間の案内板を読んでみると、この部屋は、日露戦争直前の1903年4月に元老山縣有朋、立憲政友会総裁伊藤博文、総理大臣桂太郎、外務大臣小村寿太郎の4人により、日露開戦前のわが国外交方針を決める秘密会議(「無鄰菴会議」)が開かれた部屋だという。明治日本の行く末をきめる歴史の舞台だったのだ。
かつて明治の元勲らがこの椅子に座り、国家の命運を賭けた大方針を協議したのかと思うと、深い感慨が湧き起こってきた。
※ 無鄰菴を紹介するNHKの記録映像(3分30秒)を見つけることができた。無鄰菴をコンパクトに紹介した動画である。
「無鄰菴 明治日本をきめる歴史の舞台」/『動画で見るニッポンみちしる』(NHKアーカイブス)
Google Map を頼りに「哲学の道」へ向かう
無鄰菴を出てカミさんと別れ、自由行動へ。「哲学の道」を歩いてみたくなり、銀閣寺方面へ足を伸ばすことにした。
方向音痴の小生、無事たどりつけるかちと心配である。あいにく地図は持ち合わせていない。スマホで Google Map を立ち上げ「哲学の道」と入力し、「ルート・乗換」→「経路・徒歩」を選択すると、現在地、目的地、地図、ルート案内が表示される。有り難い、有り難い、若い人には当たり前の機能のようだが、こうやって街歩きにも使えるとは。
南禅寺山門を右手に見て、「鹿ヶ谷通り」を道なりに北上し、永観堂を通り過ぎて右折すると哲学の道を発見!
木々に覆われた水路に沿って、銀閣寺まで約2kmほど伸びる「哲学の道」。春は桜、初夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪……と、四季折々に美しい景色を楽しめる絶好の散策コースだ。雪はまだだが、冬枯れの今日のような日に歩くのも一興である。
観光シーズン・オフとあって、歩く人もほとんどいない。「哲学の道」独り占め状態、一人でのんびりゆっくり歩く。
この日は、銀閣寺前まで歩き、バスでホテルに帰った。明日は、いよいよ「京都迎賓館」の一般公開、楽しみである。
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