◆前回の記事はこちら >奈良&京都見聞録(6) 薬師寺金堂復興、ゼロからの挑戦
※ 本稿は2018年12月18日の記録を、2019年1月25日にアップしたものです。
目次
薬師寺から唐招提寺へ
薬師寺と唐招提寺がこんなに近いとは知らなかった。距離にして数百メートル。案内図を見ると、ほぼ隣接と言ってもよいくらいの距離である。以前訪れた時は、ツアーのバスでそれぞれの寺を訪れたため、分からなかったのだろう。
お天気よし、風もなし、通りの人影もまばらである。軽いウォーキングがてら、歩いて唐招提寺まで向かうことにした。小春日和の陽光を浴び、のどかな里をゆったり歩いていくと、幸せな気分になってくる。
唐招提寺の南大門をくぐり、乾いた白砂を踏みながら進めば、端正な姿の金堂が近づいてくる。師走ということもあり、広い境内を歩く観光客もほとんどいない。境内は静寂に包まれていた。
作家の五木寛之氏は、唐招提寺を「落ち着いたたたずまいと、凜(りん)とした風格」(『百寺巡礼・奈良』)の寺と評したが、まさにその通り。豪華絢爛な薬師寺に対し、1300年の時を経た唐招提寺の風格は特に対照的である。
まずは金堂で参拝。中央に盧舎那仏坐像、右に薬師如来立像、左に千手観音立像(いずれも国宝)が並ぶ姿は、圧巻。いずれも千年を越える時をくぐり抜けてきたみ仏である。
これは鼓楼(ころう・国宝)、時刻を知らせる太鼓を設置するための建物。後に見えるのは講堂(国宝)。鑑真は、「仏をまつる金堂よりも、僧侶が仏の道を学ぶための講堂を優先して建てよと命じた」(前掲書)とか。
日本最古の校倉(あぜくら)造りである宝蔵(ほうぞう・国宝)、これも創建時の建物。「あちらもこちらも、国宝だらけのお寺だなぁ」と感心してしまう。
鑑真和上の御廟(ごびょう・墓所)を参拝
拝観受付でもらったパンフレットに目を通し、鑑真和上の御廟(ごびょう・墓所)があることを知り、ぜひ参拝したくなった。
御廟は、境内の北東の奥まった静かな場所に位置している。小さな門をくぐり、足を踏み入れるとまっすぐに参道がのびている。参道は隅々まで掃き清められ、両側には鮮やかな苔に覆われた林が広がっている。
木々の下に敷きつめられたような苔がやわらかな日差しを浴び、息をのむような美しさだ。
何と清浄な空間なのだろう。聞こえるのは鳥のさえずりのみ。深い静謐(せいひつ)に満たされた別世界、和上に心安らかにお休みいただこうとの思いが伝わってくる。この御廟を目にすることができただけでも、来たかいがあったというものだ。
参道の奥に和上が眠る塚があり、宝塔が置かれている。
墓前には、今朝活けたと思われる花が供えられ、かすかに香がただよっている。
墓前で低頭し合掌。わが国の仏教振興に尽してくださったご恩に感謝を捧げる。
唐招提寺を訪れる観光客で、この御廟まで足を伸ばす人は少ないのかもしれない。心が安らかさで満たされるような、素晴らしい場所である。お時間が許せば、ぜひ立ち寄ってみることをお勧めする。
鑑真和上像、なすべきことをなした安らかさ
高校生の頃、鑑真和上の来朝を描いた『天平の甍(いらか)』(井上靖)を読み、強い感銘を覚えた記憶がある。高齢の和上が、想像を絶する苦難の末、盲目となり12年もの歳月をかけて来日したこと。このような人物が実際に存在したという事実が、胸に響いたのだと思う。
鑑真は、四万人の弟子を持つ唐の宝と呼ばれる名僧で、弟子に日本行きをすすめるが、誰も手を挙げない。ならば自分が、と五十六歳の高齢を押して命懸けの渡航を決心した。
(出典:五木寛之、『五木寛之の百寺巡礼 ガイド版 第一巻 奈良』)
5度の渡航失敗の末、鹿児島に着いたのが66歳の時。東大寺で5年間仏教の戒律に関する全てを一任され、71歳で余生を過ごすために土地を賜る。和上は隠居しないで私寺「唐律招提」(現在の唐招提寺)を開き、後進の指導に当たったという。
まさに仏教の普及に生涯を捧げた方である。現在66歳の小生は、わが身の至らなさを恥じ入るしかない。
休憩所内の売店で鑑真和上座像の写真を購入した。なすべき事をなした安らかなお顔である。部屋に飾り、見守っていただくとしよう。
余談だが、秘宝とされるこの座像は和上の存命中に制作され、生前のお姿を忠実に写し取ったと言われる。実物は、年に数日しか公開されていない。
西ノ京から京都へドライブ
唐招提寺を後にして薬師寺の駐車場に戻ると、すでに時刻は13時前。朝買った「野菜弁当」を車内で広げた後は、しばし昼寝ときめこむ。スマホのタイマーを30分にセットし、シートを倒してアイマスクをかけると、たちまち睡魔が襲ってくる。どこでも眠れるのが小生の特技の一つなのだ。
短時間の仮眠だが目覚めると気分爽快、運転時の集中力がまるで違う。頭がすっきりしたところで、ナビに宿泊予定の京都のホテルをセット。京都御所の近くにあるこのホテルは、早めに予約すると8畳の和室が確保できるため、京都旅行の常宿となっている。
奈良・京都間のドライブは未経験で、60代半ばの小生にはいささか「冒険(?)」である。ナビに示されたルートを見ると、ほぼまっすぐに北上し、距離は約50km。有料道路を使えば1時間余りで到着するようだ。
実際に運転してみると、道に迷うこともなく、あまりに簡単にホテルに着いたのでいささか拍子抜けの感もあった(京都市内はさすがに混雑したが)。ナビ様々である。
ホテル着が、16時頃。今日はこのまま畳の上でゆっくりするとしよう。
※ 唐招提寺公式サイトはこちら >唐招提寺
※ シリーズ「奈良&京都見聞録」関連記事はこちら >
- 奈良&京都見聞録(11) 東寺の終い弘法で、掘り出し物を探す
- 奈良&京都見聞録(10) 京都迎賓館、オール京都のおもてなし
- 奈良&京都見聞録(9) 京都迎賓館、匠たちの一流の技に酔う
- 奈良&京都見聞録(8) 無鄰菴 (むりんあん)、極上の庭園を堪能する
- 奈良&京都見聞録(7) 唐招提寺、「落ち着いたたたずまいと凜とした風格」
- 奈良&京都見聞録(6) 薬師寺金堂復興、ゼロからの挑戦
- 奈良&京都見聞録(5) 薬師寺、よみがえった白鳳伽藍
- 奈良&京都見聞録(4) 興福寺で阿修羅像に再会する
- 奈良&京都見聞録(3) 東大寺、「自主独立」と国家創建の証(あかし)
- 奈良&京都見聞録(2) 春日大社、千三百年を共に生きた神と人
- 奈良&京都見聞録(1) 旅のお題とガイドライン
- 定年後から始めたふたり旅
[…] 奈良&京都見聞録(7) 唐招提寺、「落ち着いたたたずまいと凜とした風格」 […]