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※ 本稿は2018年12月17日の記録を、2019年1月3日にアップしたものです。
目次
阿修羅像と再会を果たす
12月17日、奈良を訪れて3日目となる。楽しみにしていた阿修羅像(国宝)との再会を果たすため、興福寺に向かう。
初めて興福寺を訪れたのは20代半ばだったから、約40年ぶりの再訪となるのか‥‥。
おすすめを受けた順路「南円堂→五重等→東金堂→中金堂」のとおりに拝観していく。
中金堂までの拝観を終え、いよいよ阿修羅像がまします国宝館へ。国宝館は、約1年間にわたる耐震工事を終え、2018年1月にリニューアル・オープンされていた。今回の工事に伴い、壁が白く統一されるなどシンプルになり、像などが照明に浮かび上がる荘厳な空間となったそうだ。
なるほど、ゆったりとした空間が確保され照明も工夫されて、仏像がもつ崇高さ、敬虔さがいや増したような空気が感じられる。
興福寺国宝館内(出典:産経新聞社/「阿修羅像安置の国宝館、リニューアル 興福寺、元日から開館」の記事 2017年12月28日)
阿修羅像は最後の展示室で、八部衆の中央に展示されていた。
※ 阿修羅像の写真については、興福寺オフィシャルサイトでご覧ください。 >興福寺・金井杜道フォトギャラリー
観光客の少ない師走のおかげか、室内の人影もまばら。阿修羅像の正面に陣取り、すぐ近くからじっくりと拝見させていただく。まず正面から、次に左右から、そして少し後ろに下がって全体の姿を眺めていく。
きゃしゃな身体、優雅さと愁いを帯びた正面のお顔の表情、身につけた装飾の文様‥‥、阿修羅像をほぼ独り占め状態である。
ちなみに2009年に東京・福岡で165万人を集めた「国宝 阿修羅展」、当時は九州国立博物館で1時間待ちが当たり前だったそうだ。それに比べ、こんなぜいたくな時間を楽しめるとは。
阿修羅像に人が集まってくれば同室の八部衆像まで移動し、人影が見えなくなると再び阿修羅像の前へ。こんな風に、心ゆくまで堪能させていただく。ずっとこの部屋にいたいような、そんな気分になってくる。
阿修羅は闘う神、荒ぶる神なのに、どうしておだやかな優しい顔をしているのか? 八部衆の一員として造形されたのに、なぜ阿修羅だけは武具を身につけていないのか?
諸説あるようだが、興福寺・多川俊映元管主は次のように説明されているようだ。
「興福寺の阿修羅像が八部衆(釈迦如来の眷属)のなかでただ一人甲冑を着けていないのも、お優しいお顔をしていらっしゃるのも、激しい争いというものを経験し、その虚しさや愚かさをクリアしているからなのです。」
(出典:「阿修羅ブームはなぜおきた?」(日本経済新聞社、WEDGE Infinity 編集部)
※ JR東海の「いまふたたびの奈良へ」シリーズ(30秒)
春日若宮おん祭の「お渡り式」見物
阿修羅像に名残を惜しんで国宝館を出ると、時代装束を身にまとった方々が、三々五々奈良県庁の方に向かって行く。なんでも今日は、年に一度の「春日若宮おん祭」の「お渡り式」当日で、県庁付近から行列がスタートするのだとか。
「春日若宮おん祭」とは、天下泰平や五穀豊穣を祈り、約900年間、一度も途切れることなく奈良の地で守り継がれてきた春日大社の祭礼。春日大社の社の一つ、若宮神社の神様が年に1日だけ神社を出て、様々な芸能を楽しむ日だとか。
祭礼の中心的行事の一つに、平安時代から江戸時代まで(約1000~150年前)の当時の姿をとどめる伝統行列「お渡り式」があるそうだ。
行列がスタートする奈良県庁付近に移動し、見物としゃれこむことにした。いつの間にか、道路には人だかりが延々と続いている。今日は日曜日とあって、例年以上の人出なのだろう。
貴族や武士、巫女(みこ)らに扮した約千人の参加者と馬約50頭が市中心部を練り歩く盛大な行列だそうだ。これだけの参加者と馬を確保し、衣装や道具(しかも各時代の)を揃えるだけでも、大変な労力と費用が必要であろう。
50頭もの馬が歩くため、中には歩きながら馬〇を落とす強者(つわもの)もいる。後続の大名行列に支障が出るのでは、と人ごとながら心配になってくる。
すると直ちに「処理部隊」が駆けつけ、手際よく片付けていく。お見事。やはり、900年の伝統(?)は伊達ではない。
行列の最後を飾る大名行列、これはなかなか見応えがあった。
ぶらぶらと街を散策
約1時間ほどの行列見物を終え、そのまま奈良の街をぶらぶら散策することとした。それにしてもこの人の多さはどうだろう。
温かいものでも食べようと、その辺りのうどん店に入りきつねうどんを頼んだら、巨大な油揚げがのったうどんが登場。油揚げの上には生姜がのせられている。
通りの一角に古美術品の店を発見し、ひやかし半分でのぞいてみる。この店の掛け軸の品揃えは中々のもの。値段も京都に比べ、はるかに割安であった。
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