◆前回の記事はこちら >奈良見聞録(5) 中宮寺、「たましいのほほえみ」に会いに行く
※ 本稿は2019年9月25日の記録を、12月28日にアップしたものです。
目次
ナビを頼りに室生の山里へ向かう
2019年9月25日、旅に出かけて3日目。今日は午前に室生寺を、午後に長谷寺を参拝する予定である。
シニアの旅では観光する場所は1日に二つ、午前と午後に一箇所ずつ訪ねるぐらいがちょうどよい。現役の頃のようにあれもこれもと欲張るのではなくて、気に入った場所をじっくり味わいたい。わが家の夫婦二人旅も、いつの間にかこのペースで計画を立てるようになってきた。
室生寺は遠い。JR奈良駅から約40km、車で1時間ほどの距離だが、ひなびた山里にあるせいか、もっと遠く感じる。40年前に訪れた時は、職場の先輩方3名ととレンタカーを借り、地図を頼りに車を走らせた記憶がある。ナビにお任せの現代とは隔世の感がある。
8時30分頃にホテルを出発し、室生寺近くの民営駐車場着が9時30分。朱塗りの太鼓橋を渡って山門をくぐり、境内に足を踏み入れると竹製の杖が30本ほど無造作に置かれている。
駐車場のおじさんが「室生寺の石段は700段あるので、気いつけてな」と送り出してくれたことを思い出した。
あいにく仁王門は工事中でシートに覆われていたため、朱塗りの門を目にすることはできない。後日ネットで紅葉の頃の仁王門の画像を見つけたので、貼っておくことにする。
紅葉の頃の仁王門。まさに絶景である。(出典:ZEKKEI Japan)
鎧坂(よろいざか)を登り金堂へ
「鎧坂(よろいざか)」と呼ばれる最初の石段を登り始める。石段の両側は、しゃくなげや木々の梢に覆われている。
背後の女性2人連れは、先ほどの杖を手に準備万端のようだ。山に登り慣れている小生にはそれほどでもないが、普段平坦な道しか歩かない女性には700段は楽ではあるまい。
一段一段足を進めていくうちに気づいたのは、踏みしめる自然石の石段が実に見事に掃き清められていること。
鎧坂を登ると金堂(国宝)が目に入る。近寄って掲示を見ると、十一面観音立像(国宝)は「出陳中」と書かれていた。東京にお出かけとのこと、残念である。
※ 堂内は撮影禁止のため、以後のみ仏の画像は全てネットからの引用。
十一面観音立像(室生寺、撮影:三好和義)/出典:日本経済新聞社
本来であれば、このような堂内の様子を拝見できたのだろうが‥‥。十一面観音立像だけでなく、中央の伝釈迦如来立像も国宝。
出典:奈良大和四寺巡礼
十一面観音立像にお目にかかれなかったが、金堂左奥に位置する本堂(灌頂堂)内の如意輪観音像(国宝)が実に見事であった。おだやかな顔立ちに見ほれてしまい、しばらく動けなかったほどだ。この仏様にお会いできただけでも、室生寺に来たかいがあったと言うもの。
如意輪観音象(室生寺)/出典:奈良大和四寺巡礼
日本一小さくて、日本で二番目に古い五重塔
五重塔(国宝)は、室生寺のシンボルとも言える存在。うっそうとした杉木立の中の石段を一段ずつ登っていくと、一歩ごとにその優美な姿が眼前に現れてくる。その五層の屋根が全て表れると、これから飛び立とうと翼を広げた鳥のように見えてしまう。
観光案内パンフレットには、次のように紹介されていた。
優美で端正な姿が人気の五重塔。
高さ約16mと屋外に建つ五重塔では我が国最少。
1998年の台風で倒れた木によって大きな損傷を受けましたが、このニュースが伝えられるや支援の声が殺到し、日本だけでなく海外からも、仏教関係だけでなくキリスト教団体からも修復資金として多額の寄金をいただきました。
現在の新しく修復された室生寺の五重塔は多くの人々の愛情に支えられて立っています。(出典:奈良大和四寺巡礼観光案内パンフレット)
室生寺の五重塔が最も美しいのは、しゃくなげの咲く4~5月の頃だとか。境内には、およそ3千本のしゃくなげが植えられている。このしゃくなげの大半は、信徒の多くが吉野や大台ヶ原の山中で苦労して採取し植え替えたもの。彼らの子や孫たちにより、営々と手入れが続けられているとか。
3千本のしゃくなげで華麗に彩られた五重塔、艶(あで)やかな姿が目に浮かぶようだ。
しゃくなげで彩られた五重塔(室生寺)/出典:奈良大和四寺巡礼
五重塔の周囲は高さ50mほどの杉の巨木が、塔を囲む形でそびえ立っている。平成10年(1998年)の台風7号で、このうちの1本が倒れて塔を直撃。見るも無惨に損壊した写真を目にして、心が痛んだ覚えがある。
その後、多くの方々から修復資金が寄せられ、目標額を大きく上回るほどの浄財が集まったとのこと。2年後の平成12年には、修復工事を終えることができたようだ。
目の前の五重塔は、何事もなかったかのように杉木立の中にたたずんでいた。
※ 本記事の続きはこちら >奈良見聞録(7) 女人高野・室生寺、「心は室生に 有り明けの月」
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