奈良&京都見聞録(5) 薬師寺、よみがえった白鳳伽藍

投稿日:2019年1月7日 更新日:

薬師寺 並び立つ東塔と西塔出典:薬師寺/ウィキペディア(Wikipedia)、Wakakusa-yakushiji.jpg、名古屋太郎氏撮影

◆前回の記事はこちら >奈良&京都見聞録(4) 興福寺で阿修羅像に再会する

※ 本稿は2018年12月18日の記録を、2019年1月8日にアップしたものです。

 

目次

薬師寺に出かけてみれば、東塔は解体修理中

 12月18日、奈良を訪れて4日目。今日は午前中に薬師寺と唐招提寺を訪れ、昼食後に京都へ向かう予定である。 

 ところで薬師寺といえば、次のフレーズに聞き覚えのある方もいらっしゃると思う。

時(とき)が並び立っておりまする。
かたや、1300年前がよみがえった西の塔。
かたや、1300年を経た東の塔。
一度に二つを仰ぎ見ることの、何というぜいたく‥‥。

(出典:JR東海CM動画「いま、ふたたびの奈良へー薬師寺」)

 このJR東海のCMに使われたキャッチコピー、実にうまいなぁと感心した覚えがある。その動画(30秒)をご覧いただきたい。

 このように二つの三重塔が並び立つ光景を楽しみにしてきたのだが、あいにく東塔は解体修理中らしく、大きな覆屋(おおいや)ですっぽりと覆われていた。

薬師寺 覆屋に覆われた東塔

 工事は2009年から始まり、完了は2020年6月とのこと。10年近くも前から修理中なのに、のんきに東塔を見に訪れるとは‥‥、赤面のいたりである。

 米国の東洋美術史家フェノロサが「凍れる音楽」と絶賛した東塔。その美しい姿を見られないので、東塔を模した西塔を仰ぎ見る。法隆寺の宮大工棟梁・西岡常一(にしおか・つねかず)氏が、飛鳥時代から受け継がれた建築技術で蘇らせた塔である。

薬師寺西塔

 実際は三重の塔だが、屋根の下にそれぞれ裳階(もこし)と呼ばれる廂(ひさし)がついており、六重の塔のように見える。その交互する大小の屋根のコントラストが、何とも美しい。

 

よみがえった創建時の白鳳伽藍

 師走で観光客がまばらということもあり、静寂に包まれた境内を静かにゆっくり散策する。中門、回廊、金堂、西塔、大講堂、食堂、玄奘三蔵院伽藍‥‥、いずれも色鮮やかな堂塔が創建当時の姿に再現され、実にあでやかで美しい。

 「薬師寺は境内を歩くだけで心が華やぎ明るくなる」そうだが、まったくその通りである。

 これらの豪華絢爛な建築物は、全て1968年から50年の年月をかけて再興されたもの。訪れる者は、白鳳時代そのままの薬師寺を目にすることができる。まさに「何というぜいたく‥‥」である。

薬師寺 金堂

最初に復興された金堂、東塔と同様に裳階(もこし)がついている。

 回廊の隅木(すみぎ)飾りと垂木(たるき)飾り。陽光に照らされ、丹塗りの朱色と金色の飾りがきらびやかで美しい。こんな細部にまでこだわり抜いた造形に見入ってしまう。

薬師寺回廊の装飾

 平山郁夫画伯が30年かけて制作に当たった「大唐西域壁画」が納められている玄奘三蔵院。広い院内には誰も見当たらず、深い静寂に満たされていた。

薬師寺 玄奘三蔵院

玄奘三蔵院

 このように今でこそ美しい白鳳建築を楽しめる薬師寺だが、実は50年前までは荒れ果てた古寺に過ぎなかったとか。

 戦国時代の騒乱で東塔と東院以外は全て焼失し、国宝薬師如来像は1600年に建てられた仮金堂に安置されたまま。柱は虫に食われ、雨天時は堂内で傘を差さねばならない有様だったそうだ。

 

高田好胤(たかだ・こういん)師の「青空法話」

 小生が初めて薬師寺を訪れたのは中学校の修学旅行の折、今から50年以上前になる。まさに薬師寺が老朽化し惨状を呈していた頃である。いくら国宝とは言え、中学生に古びた東塔の良さなど分かるはずもなく、「千年以上も前の塔か、ふ~ん。」で終わりだった。

 しかし、薬師寺を訪れたことは記憶に残っている。声のよく通る元気のいいお坊さんが、マイクも使わず一人一人に語りかけるように説明をしてくれた。その話が実に面白かったのだ。

修学旅行生を前に「青空法話」を行う故高田好胤師(出典:不明)

 生意気な多くの中学生たちを相手に、何度もどっと笑いをとりながら、歯切れよく語りかけてくる。「すごい坊さんだなぁ」といたく感心した覚えがある。残念ながらどんな話だったかは覚えていない。しかし、「面白くて、いい話」だったことは記憶にとどめている。

 今思えば、あれが薬師寺の元管長・高田好胤(たかだ・こういん)師の若き日の姿だったのかもしれない。師の楽しくわかりやすい案内については、次のように紹介されている。

 1949年、好胤は副住職に就任。当時の薬師寺は、老朽化が進んで荒れるに任せる状態であった。好胤は「仏法の種をまくことが自分の使命」であると考え、修学旅行の生徒達への法話に力を入れた。18年もの間の長きにわたり、そのユーモアたっぷりで分かりやすい法話は「青空法話」とも呼ばれて人気を呼び、高田の法話を聞いた生徒は、一説には600万人以上にものぼるという。

(出典:高田好胤/ウィキペディア(Wikipedia))

 ある中学生は感想文に「寺は金閣、庭は龍安(寺)、坊主は薬師寺、ベリーグッド」と書いたとか。

※ 晩年の高田好胤師の法話が視聴できるNHKの記録映像(3分11秒)を見つけることができた。「和顔愛語(穏和な顔つきで、相手を思う優しい言葉)」と称された、師の温かな人柄がよく分かる動画である。
 「高田好胤 かたよらない こだわらない とらわれない心」(NHK人物録/あの人に会いたい)

 


※ シリーズ「奈良&京都見聞録」関連記事はこちら  >

 

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