◆前回の記事はこちら >奈良&京都見聞録(8) 無鄰菴 (むりんあん)、極上の庭園を堪能する
※ 本稿は2018年12月20日の記録を、2019年2月19日にアップしたものです。
今回の京都の旅で楽しみにしていたことの一つが、京都迎賓館の参観。以前は4~8週間前に応募する必要があったと記憶するが、最近になって当日参加も可能となったと聞く。宿が京都御苑まで徒歩7~8分という立地だったので、飛び込みで訪れてみることにした。
館内に一歩足を踏み入れると、そこは匠たちの最高峰の技が輝く「未来の国宝」館と言いたくなるような施設。その素晴らしさはまさに「眼福(がんぷく)」の一言であった。
京都に立ち寄る機会があれば、ぜひ京都御所とセットで参観されることをお勧めしたい。
目次
京都迎賓館の一般参観
京都迎賓館での日英両首脳(出典:首相官邸ホームページ)
京都迎賓館は、京都に平安京ができて1200年になるのを記念し、平成17(2005)年4月に開館した国の迎賓施設。総工費200億円をかけ、「日本の伝統技能の粋を集めた最高のおもてなしの場」として建設された。2016年7月より一般への通年公開が開始されている(入場料1500円~2000円)。
2週間ほど前に確認したところ、ネット予約は既に一杯だった。ただ公式サイトには、「自由参観方式」であれば個人(19名以下)の場合は事前予約不要、と記載されている。観光シーズンを外れた師走ということもあり、当日受付でも何とかなるだろうと期待して、直接京都迎賓館を訪れることにした。
12月20日午前9時40分。蛤御門(はまぐりごもん)から京都御苑に入ると、いつもながらの広く清浄な空間が広がっている。師走の朝の冷たい空気に身が引き締まる。常緑の松の緑が目を引く。京都市中に、これほど豊かな自然とゆったりとした空間が残っていることが奇跡のように思える。小生の大好きな場所の一つである。
砂利が敷かれた御苑内をまっすぐ東に進み、御所の築地塀に沿って左折すると京都迎賓館の表門が見えてくる。
出典:「御苑案内図」/環境省公式サイト
※ 京都迎賓館の参観情報はこちら >「京都迎賓館」公式サイト/内閣府
匠たちの一流の仕事にふれる眼福(がんぷく)
受付で自由参観料1500円を支払い、地下で手荷物検査とボディチェックを受けたら、いよいよ迎賓館へ。国賓の方々と同様にこの玄関から入るのかと思うと、期待と緊張が高まってくる。写真撮影は許可されているとのこと。
出典:「京都迎賓館」公式サイト/内閣府
玄関の扉が開くと、玄関ホール正面に金屏風と車をかたどった花器が置かれている。本来は、賓客を歓迎する生け花が出迎えてくれるそうだ。公式サイトには、花が生けられた写真があったので、小生のものと並べてアップしておく。それにしても、素人とプロの技量の差は歴然だなぁ。
花が生けられた玄関の様子(出典:「京都迎賓館」公式サイト/内閣府)
ここから先は、迎賓館の素晴らしさに感嘆するばかりであった。建築、日本庭園、装飾、調度,工芸品‥‥、見るもの全てが息をのむほどの見事さだ。聞くところによると、人間国宝を含む百人以上の職人が携わり、最高の技を発揮したという。「日本の伝統技能の粋を集めた」と評されるそれらを一つ一つ取り上げていたら、きりがない。
ここでは、小生が特に感銘を受けた幾つかを紹介させていただこう。
「藤の間」の壁面装飾「麗花」
「藤の間」(出典:「京都迎賓館」公式サイト/内閣府)
「これは‥‥」。大広間「藤の間」に足を踏み入れると、そのあまりの豪華さに言葉を失ってしまう。壁面を飾るつづれ織り「麗花」は、縦3.1メートル、横16.6メートルの西陣織り。1000色の染め糸を使い、1年7ヶ月かけて織り上げられたという。桜、藤、牡丹、菊、39種類の日本の草花が織り込まれている。
床に敷き詰められた緞通(だんつう)には、舞い散った藤の花びらが織り込まれており、その上を歩くのがはばかられほどだ。壁面装飾、緞通、格子天井の照明、調度品の数々、それぞれに京都の匠たちの最高の技と注ぎ込まれた膨大な時間がうかがえる。
ちなみに「藤の間」の由来は、藤の花言葉が「歓迎」であることによるとか。
舞台扉を飾る截金(きりかね)「響流光韻」
藤の間には舞や能、雅楽などが披露される舞台が設置されている。その舞台扉を飾るのが、人間国宝の故江里佐代子(えり さよこ)氏が制作した截金(きりかね)の装飾。
截金とは、髪の毛ほどの幅に切った金箔やプラチナ箔をはりつけながら文様をつくりあげていく伝統技法だとか。この作品は下準備だけで1年かかったそうだ。実際に作品にとりかかり、完成までにどれだけの労力と時間が費やされたのか、気が遠くなりそうだ。
カミさんはこの舞台扉の装飾からなかなか離れない。小生も同様である。見れば見るほど美しく、その細工の繊細さは驚くばかりである。立つ位置を変えると、光線の変化で金と銀の優雅な曲線が流れるような陰影を見せてくれる。
髪の毛ほどの細さの箔が描く文様(出典:「京都迎賓館」公式サイト/内閣府)
「桐の間」の長さ12メートルの座卓
京料理を提供する和の晩餐室が「桐の間」。中央に据えられた長さ12メートルの座卓。漆黒の漆塗りの表面に、天井から注ぐ照明が映っている。この座卓を作ったのは京都の島博行さんの漆塗り工房。ここまで大きな一枚ものを塗り上げた経験は誰にもなかったという。
漆塗りは膨大な手間がかかるため制作は8ヶ月、最後の磨き粉をつけて素手で磨く作業には、3人の職人が5日を費やした。朝から晩まで磨き続けた手は、左右ともやけどを負ったようになったという。
隅々にまで込められた匠の技
京都迎賓館には、誰が気づくか分からないほどの目立たない場所にも、匠の技や遊び心が隠されている。
一番面白かったのは、廊橋(ろうきょう)の一番端の天井板に彫られている虫たち。厚さ数ミリの杉板にさりげなく透かし彫りにされている虫たちを見つけると、何となくほほえましくなる。
廊橋の天井板に透かし彫りされている虫たち(出典:京都迎賓館/京都新聞)
桐の間に置かれた座椅子、背の部分に描かれた「蒔絵(まきえ)」にも驚かされた。描かれている桐の葉の色や形が一つ一つ微妙に異なり、同じ模様の椅子は一つもないという。幾つか見比べてみたが、なるほど微妙に異なっていた。
色や形が全て違う桐の蒔絵(出典:「京都迎賓館」公式サイト/内閣府)
このように京都迎賓館の事物の一つ一つに、携わった方々の意気込みと興味深いエピソードが秘められているようだ。「技を見せびらかさず、見えないところに技を使う」、京都迎賓館には「主張しない凄さ」があると誰かが言っていたが、なるほどと得心した次第。
迎賓館を後にしたのが、11時30分。また来てみたいと強く思った。
※ 京都迎賓館を知るために
居ながらにして迎賓館の素晴らしさを味わうには、政府インターネットテレビによる紹介動画「京都迎賓館」(約15分)の視聴が手っ取り早いと思う。この動画、実に分かりやすく迎賓館の魅力を伝えてくれる秀作である。
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